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一晩経ってもタコピーが鬱エンドとしか思えないので聞いて欲しい。

※『タコピーの原罪』全話及び『進撃の巨人』のネタバレが含まれます。


『タコピーの原罪』が完結した。

https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496827246816


 この終わり方がハッピーエンドとまでは言えずとも、各々に救いのある前向きな終わり方であると捉えた人は多そうな印象を受ける。
 けれど、最後にこう思わされることこそ作者の最大の罠で、最悪なのではないか。
 僕は、『タコピーの原罪』がド鬱エンドであるとしか思えない。論点は、タコピーが鬱マンガであるか否かではなく、鬱エンドであるか否かだ。

①絶対的な悪がおらず、感情を向ける先がない


 いじめ、DV、殺人。このような凄惨な要素が盛り込まれた作品では、往々にしてヘイトを集める「悪役」が存在するものだが、『タコピーの原罪』において明確な悪役というのは存在しない(ように見える)。
 しずかを虐めるまりなはもちろん悪役だし、殺人を隠そうとする東くんも悪役。出てくる親たちも決して良い人だとは言えない。けれど、それぞれが何らかの事情や背景があって、それらの悪事に正当性が担保されている(ように見える)。
 これは、『進撃の巨人』の後半を読んでいる時の感情によく似ている。序盤は絶対的な悪として「巨人」が対置され、中盤は敵国である「マーレ」が悪役だった。しかし、戦争によって敵国に乗り込んでいった先にあったのは自分達と変わらぬ日常と人々の姿であり、正義とは主観でしかないことを思い知らされる。最終的に悪として「エレン」が置かれるわけだが、我々はどこにヘイトを向けても消化不良に陥る。
 タコピーも同じく、話によって悪役が変わるため、決してスッキリと最終回を読み終えることはできない。


②タコピーというキャラによるネタ化


 明確な悪役がいないと言ったばかりだが、唯一絶対的な悪と言えるのが他でもないタコピー自身だと思う。タイトルが『タコピーの原罪』であることから分かる通り、これはタコピーが始めた物語なのだ。タコピーさえいなければ悲劇がさらに悪化することはなかったかもしれない。
 しかし、当のタコピーは人間ではなく宇宙人で、一般的な倫理は持ち合わせていない。とんでもないことをかわいらしいフォルムと口調で言ってのける。有名なのが「久世しずかを殺せばいいッピね」という鬼畜シーンだが、このコマにこそタコピーの狂気が潜んでいる。
 鬱マンガにおいてマスコットキャラクターを利用することはよくある。作者のタイザン5先生が愛読していると公言した『おやすみプンプン』では、目を覆うような展開を「プンプン」というマスコットキャラを加えることで緩和しようとしている。

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 加えて、「ッピ」という口調。柔らかいな口調でえげつないことを喋る「タコピーミーム」は既にネットの海を覆っている。
 鬱マンガがコラ化・ネタ化されることで、読者の心的負担が軽減される効果は確実に存在する。

③ループ構造の苦悩


 タコピーが「ループ」の構造を取るのもまた悩みのタネだ。つまり、悲劇は繰り返されるのである。
 最近上映された『君が落とした青空』という映画があるが、これは交通事故で死んでしまう男子高校生をヒロインが時間を何度も巻き戻して救おうとする話だった。この映画を観た時、「巻き戻しても彼が死んだことには変わりはないから、何度も死なせることになるのでは...?」と感じ、ループさせることの残酷さに気づいてしまった。

https://happinet-phantom.com/kimiao/


 これは持論だが、いくら巻き戻すとはいえ何度も苦痛を味うくらいならいっそ死なせてあげた方が良いんじゃないか、と思ったのだ。
 タコピーが巻き戻した回数だけ、しずかは、まりなは、東くんは、苦しみを味わう。
 バイバインによって宇宙で増え続ける栗まんじゅうのように、並行世界に生きる彼らは今も苦しみ続けている。最終回で救われた彼らは、そのうちのたった一つの例でしかない。

④最後に救いが生じてしまった


 なまじ最終回で救いのある終わり方をしてしまった分、これまでの酷い事件や行為にうっすらとオブラートがかかってしまったこと。これこそがこの作品最大の原罪だと思う。
 仮にもう一度タコピーを読み直すにしても、「最後は救われるし」と思って安心して読めてしまう。最後に最大の鬱要素を持ってきて、ここまでの凄惨さを噛み締められる方がよっぽどマシだ。自分を虐めていた人間と友達になることなんて、万が一にもない。
 明るいラストによってこれまでの暗さがぼやけてしまうことこそがこのマンガの最も鬱で悲しいところだと思う。
 最後にプラスに振り切ったとはいえ、これまでのマイナスは全く解決していない。収支的には未だマイナスのままだ。終わり良くても全ては良くない。

 『おやすみプンプン』が“暗い自殺”だとすれば、『タコピーの原罪』は“明るい自殺”だと思う。
 そして、自殺の凄惨さを認識しにくい点で、後者の方がより凄惨だと言える。
 タコピーはやはりド鬱マンガでド鬱エンドだった。一晩明けても、そうとしか思えない。
 まるで批判しているかのような文面になってしまったが、僕はこの作品は本当に素晴らしいと思う。浅野いにお作品との差別化、チェンソーマンなどの地獄系漫画の流れ、ディティールの細かさ。すべての要素が成功しているように見える。

 タイザン5先生、お疲れ様でした。素晴らしい作品をありがとうございました。

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