新海誠『天気の子』とプロパガンダ

 「天気の子」という作品を単純なエンターテイメントとして見る人の方が多数派だろうことは明白である。しかし、表現物がどのような効果を起こすことを期待して作られるか。また自分達がそれをどうリバース・エンジニアリングをするかと考える人間にとって、そこでの停止は危険だろうと思われる。

主人公・帆高は色々な過程を経た後に拳銃を手にしている。そのために彼は警察に追われる身となり、また同時にヒロインも児童保護施設への入居を(精神的理由から)拒否している

※児童保護施設入居の精神的理由による拒否、第一ターニングポイント

そう。つまり100%の晴れ女ことヒロイン「陽菜」は人柱的な、晴れを呼び起こす代わりに代償を支払うことが運命づけられていた少女であった。既に少女の身体は透明になりつつあり、人柱として天空へと捧げられることが暗示され、そしてとうとう主人公の前から姿を消す。
ヒロイン「陽菜」が天上へと連れ去られた後、東京はかつての夏そのもののような晴れになり、前日までの雨で土地が冠水してこそいるものの、陽菜の居ない晴れた東京で、主人公は警察に逮捕される。
しかし主人公はこう考える。つまり
「陽菜のためならば、雨が降り続けたって構わない。僕は陽菜を取り返しに行く」
陽菜が100%の晴れ女の能力を得たキッカケとなった、代々木の廃ビル屋上にある小さな神社の鳥居に向かうため、主人公は警察署から逃げ出し、警察官達の妨害や大人たちの協力を得ながら、新宿駅大ガード上の線路を走る。
線路上では連日降り続いた雨のために線路の点検が行われており、線路上を走る主人公を見た整備士たちは
「危ないぞ!」
と主人公に言い、大ガード上では主人公を目撃した人々が写真を撮ってそれらを茶化す。しかし主人公は、雨の上がった、晴れた東京の線路上を走り、光り輝くその場所へ向かい走る。

※二つ目のターニングポイント。
「危ないぞ」
と言う人々、それを無視して光の元へと走る主人公、それを茶化す人々。

主人公は鳥居から陽菜の居る天上へと向かい
「世界がどうなろうとも僕は陽菜を取る!」
と高らかに宣言。陽菜は現世へと戻り、そして雨は再度降り始める。
そうして三年、雨は降り続き『東京は水没する』。主人公は保護観察処分となり、自身の出身地で高校を卒業し、また再度大学へ行くために東京を訪れる。

ここで、非常に……非常に不可解なワンシーンが挿入されることとなる。

かつて主人公たちは”晴れ女”の能力でもって晴れを呼び起こす仕事をしていたのだが、そこに一件だけ「晴れ」をまた呼び起こして欲しいと言う老人からの依頼が入っていることに気がつく。
この老人は主人公たちが活動していた頃にも依頼をしていて、その時は
「炊いた線香の煙を渡って彼岸から人が帰ってくるんだ」
と語っていた。その老人である。
その老人に対して主人公は
「晴れ女の仕事はやめたんです」
と言い、老人はこう返す。
「東京って言っても、200年前はこういう風に入り江になっていて、それを街にした。それがもとに戻っただけ」
と語り出す。

※この作品最大のターニングポイントである

その老人との会話の途中、水没した東京では遊覧船のようなもので通勤が行われている描写がなされ、その後に主人公はヒロインである陽菜と出会い、東京は水没したものの、僕らの愛はこれからだ。END

これが「天気の子」である。

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