【寒さに耐える生徒たち】スパルタ中学校に転校した愛子(2)
愛子は学校の鐘が鳴る中、グランドを必死に走り抜けた。自分のクラスを見つけて整列する必要があったが、転校初日で自分のクラスがわからない。あたふたしていると、男の教師の声がした。
「おいお前、遅刻だな。5分前行動が鉄則であるこの学校で、遅刻は許されるはずがない。1分間の遅刻につき、5回の鞭打ちのはずだが、お前は1分も遅刻してないから、3回にしてやる。」
「私、今日転校してきたばかりなんです。それで、最初どう入ればいいのかわからなくて…自分がどのクラスかもわからないんです。」
愛子がこのセリフを終わった直後、その男性教師はげんこつで腕を大きく振って愛子の頬を殴った。愛子は雪の上に半そで・半ズボン・裸足の状態で倒れた。頬の痛みはもちろん、全身が酷く痛く、寒さで苦しくて、泣いてしまった。
「お前、転校生のようだが、他の校則も教えてやる。口答え禁止、つまり教師が鞭打ちをすると言っているのに、逃れよう言い訳したお前はげんこつになって当然だ。あと本来なら、泣くのも禁止だし、寒いとか辛いとか弱音を吐くのも禁止、次泣いたら体罰だからな。どんなに辛くても我慢して悟られないようにしろ。」
「わかりました。もう2度と泣きません。」
「じゃあうずくまってないで早く立て。」
愛子は直ぐに立ち上がった。寒いことが悟られないように体が震えて縮こまろうとするのを必死に抑えて、背筋をピンとのばして、手も体の横に真っすぐにつけて、直立不動の姿勢をした。
「やればできるじゃないか。体操服には中村と書いてあるな、俺のクラスだ。俺の名前は楠昭三、26歳だから、生徒との年齢は近い。今赤い眼鏡をかけた女が後ろにいるクラスがあるだろう、そこに並べ。一番後ろにだ。走れ。」
走らないといけないのは知らないはずはなかったが、寒さで冷やされた体が思ったようには全く動かない。ただ、さっき言われたように、自分が辛いことを知られてはならない。知られたらもっと辛い体罰だ。過呼吸になっても、苦しそうにしてはいけない。白い息で先生たちに過呼吸になっているのを気づかれないように、少しずつ息を吐いて見えないようにした。
走った距離はせいぜい50メートルくらいだっただろう。しかし、体が痛んでいたせいで、何度もこけたし、着くのに何分もかかった。愛子は、遅い自分を見た教師に怒られるかと思ったが、一生懸命走っていることが伝わったのだろうか、何もなく、安心した。ただ、遅刻したことの罰は今している準備体操が終わった後に全校生徒の前でするらしい。普通に鞭打ちをされるのも嫌だというのに、全校生徒の前でというのは少しの遅刻に対する罰としては重過ぎる。
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