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不運 上

7月14日NELbasic3が始まった。今日の天気は曇りで雲行きは怪しい。雨が降りそうだ。長い道のりを超えた先にあったのは鳥羽白浜だ。近くには船が停泊しており、家族連れが浜で楽しそうに遊んでる。僕は和やかな気持ちになりながら集合に駆け寄った。

「天気は曇りですが、十分熱中症に気をつけるよう。気づいた時にはなっているから、こまめに水分補給をするように。」

教授の言葉が終わり、各自カヤックの点検、声掛けの確認を済ませカヤッキングが始まった。

着いた場所は大村島。トンビが近くを飛んでいるのが見える。下を見ると漂着した漁具、発泡スチロールなどのプラごみ、生き物の抜け殻だ。ここでは浜の清掃、そしてペアでのレスキュー訓練が始まった。

レスキュー訓練。スタッフたちが卒なくこなすのをみて、実際にやることになった。初めてカヤックから落ちる体験は緊張と恐怖が混じったものだった。ペアの人は不安そうな顔を拭い切れない顔だった。仕方ない。

そして自分たちの番になった。僕が落ちる。そして、レスキューしてもらう手筈だ。しかし現実はそうスムーズにことは進まない。ペアの子と連携がうまく取れず、カヤックに捕まりながら流されてしまった。近くいた先輩が安全なところまで運んでくれた。その間、僕は必死にカヤックに捕まり、海の中を漂っていく。恥ずかしい。

「ごめん。うまくできなかった、、」

ペアの人が申し訳なさそうな顔している。

「全然大丈夫です、それよりもこの状況恥ずかしいね」
「全然そんなことないって」

少し安心した。僕はてっきり痴態を晒していたと思い違いしていたようだ。だが、これは始まりに過ぎなかったようだ。

無事レスキュー訓練を済ませカヤッキングが終わる。今回泊まるのは廃校、旧鏡浦小学校。体を流し、キャンプを立て、夕食の準備をする。初めて飯盒を使っての調理だった。初めてにしては中々食べれるものが完成したと思う。

中華丼

そして、教授の伝手で夜の美しい生き物を見ることになり夜道を疲れ切った体を起こして進む。着いたのは真ん中に四角い穴のある桟橋。何も見えない。空は曇っていて星空の一つも見えない様子だ。

「今から、夜光虫というプランクトンを光らせてみます。光は全て消して、よーくみていてください」

ガイドの人の指示に従い、周りの光が消えていく。姿形が見えないほど暗く、さすが田舎である。そして穴の中を覗くと、そこには青い星があった。水辺一面に広がる星はまるで天の川のように一つ一つが細かく、輝耀であった。これが目に見えない小さなプラクトンの出す一瞬ばかしの輝きであり、都会に住んでいては一生見ることのできない光であった。綺麗だ、今までの疲れが吹き飛ぶかのような佳景だった。

夜光虫の生命活動

キャンプ地に戻り、ミーティングを済ませて寝る。一人一つのキャンプは狭く、通気性が悪い。いつもの冷房の効いた、ふかふかのベッドのある部屋とは大違いだ。しかし、あの佳景を思い出しながら、つじあやのさんの「風になる」を脳内で再生し、いつしか意識が途切れていく。、、と思ったのも刹那、すぐ起きた。暑い、暑すぎるのだ。なんだか、空気が薄く感じる。仕方なく窓を開けて寝ることに、、。

生憎朝起きると虫たちのビュッフェが終わり、散らかった状態だけが残っていた。食べるなら、毒も残していくなよと思いながら支度を済ます。痒い。眠い。暑い。この世の三苦を味わいながら、朝食を味わって食べる。

キャンプ道具を片付けたら、2日目のプログラムの始まりだ。天気は晴れ、予報は雨だったが気持ちの良い晴れ。悪くはなかったが熱中症に気をつけねばと教授の言葉を反芻する。

再び鳥羽白浜に着く。今日は海に肩まで浸かり体温調節をし、出発した。大村島に到着。これでもカヤックに乗るのは4回目、慣れたものだ。

順調に進んでいき、いよいよセルフレスキューの始まりだ。昨日はあれだけペアレスキューで苦労したのだ。セルフとなると勝手が全く違うだろうと思いつつ、自信はある。スタッフの数が限られていたので、前半後半に分かれてやることになった。僕は当然の後半。たまたま後半になったのだ。

前半の人がセルフレスキュー訓練している間は清掃だ。燦々と辺りが照らされる浜は暑さが厳しい。仕方なく休憩しながら清掃をした。ほぼ休憩だったかもしれない、。

前半の訓練が終わる頃空模様が怪しくなってきた。底の暗い厚い雲だ。教授が天気を確認、雨は降らず、南方を過ぎていくと判断されたため昼食を取ることに。今昼は塩ラーメンだ。安定してうまい。具材のない寂しいラーメンだが、こういった時にはおいしく感じるものであり、錯覚だと気づくのはつまらない奴なのだ。美味しいものは美味しいで良いのだ。

これはミソ、あれはボク

さて、つまらない食レポ批判を済ませていよいよセルフレスキュー。やっぱり怖い。落ちたくない。慣れるのはまだ先だと思う。

グループごとに順番に行なっていった。一人目が頑張ってる間に空の様子が、、光った。雷が近くで鳴ったのに気づき、すぐに沖に戻ることになった。すると雨が降り始めた。何事も予想通り行くとは限らないうえ、今回は自然が相手だ。これほど読めない相手はコウメ太夫のネタぐらいだろう。

しばらく木陰に忍んで、体を休ませていた。雨が激しくなってくる。しばらくすると止むそうなので、止み次第帰ることになった。僕は少しの安堵と、焦りを感じつつ納得した。これは仕方ないのことだ。自然は気まぐれ、人間の手に負えるものではないのだ。

止んだの確認して出る。無事に鳥羽白浜に着き帰りの準備だ。荷物をしまって、車の影で着替える。女子がシャワーを使っているので男子はなしだ。、、。僕たちだって髪にこだわりを持つお年頃なのに、とどうでもいい御託を抜きにして着替えを済ませ帰る。

無事にバスに乗り、鳥羽駅に着き、電車に乗る。もう安心していい。無事家に帰れるのだから。僕は電車で張った糸が切れたかのように眠る。

続く→

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