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食は人を癒し、変える。美味しい映画2作

11月は「食」をテーマに、SYOがピックアップした“食の効能を描いた”映画『パディントン2』『転々』の魅力を3ポイントに分けて紹介。

料理シーンは、登場人物の「心が動く」瞬間でもある

人の営みに欠かせない「食事」。幼少期から現在に至るまで、人生を送っていくなかで出合った映画やドラマ、或いは漫画や小説、絵本などに登場する料理や食事シーンに「美味しそう」「食べてみたい」と思った経験があるのではないか。同時に、記憶に残る食事シーンには「感情」がつきもの。幸福感や感動、或いは孤独に喪失……。今回は、そんな心が動く瞬間をとらえた食事シーンが印象的な2本『パディントン2』『転々』を紹介する。どちらも、ぱっと見は朗らかなコメディだが、中身を観ていくと食事が“救済”の役割を担っている。食欲の秋にぴったりな、優しくてちょっと寂しくて心が暖かくなる“美味しい映画”たちを楽しんでいただきたい。

食を通した“再起”を優しく見つめる『パディントン2』

©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

南米から英ロンドンにやってきた“紳士な”クマ=パディントンの冒険を描く人気シリーズの第2弾。みんなで観られるファミリー向け映画にとどまらず、辛口な各国の批評家層からも絶賛を浴びた稀有な作品だ。本作では、冤罪で逮捕され、刑務所に収監されてしまったパディントンを家族が救おうとする物語が展開する。一方、パディントンは囚人たちのすさんだ心を持ち前の優しさで救っていく。そのきっかけとなるのが、彼の大好物であるマーマレードサンド。そのあまりのおいしさにほれ込んだ強面の料理長と意気投合したパディントンは囚人たちと共にメニューの改善に乗り出し、多種多様なスイーツを作り出していく。犯罪に手を染め、人生を諦めていた人々が料理を通して改心し、再起していくさまには、胸を震わされる。名ゼリフ「If we are kind and polite, the world will be right(親切な人に世界は優しい)」も含め、心もお腹も満たされる傑作。映画人生のフルコースに加えたい1本だ。

食卓=家族の団らんへの憧憬をファニーに描く『転々』

©2007「転々」フィルムパートナーズ

三木聡監督×オダギリジョー×三浦友和が送る、風変わりながらほっこり×ほろりとさせるロードムービー。ひとりぼっちの大学8年生の男(オダギリ)は、ひょんなことから借金取りの男(三浦)の“東京散歩”に付き合う契約を交わすのだが……。吉祥寺の井の頭公園で焼き鳥を食べ、愛玉子(オーギョーチー)を食べ、漬物や家庭料理をご馳走になり、疑似家族的な催しに巻き込まれてすき焼きにマヨネーズをかけてみたり、みんなで談笑しながらカレーを食べたりと、食事シーンが多数。本当はそう思っていないのに「まずいよ!」と叫んでおどけてみたり、「カレーが辛い」と言いながら涙をごまかしたり、家族の団らんを象徴する“食卓”の温かさに触れた主人公の心情にしんみり。オダギリ×三浦に加え、小泉今日子や吉高由里子、そして三木監督それぞれの個性が「いい味を出している」、人の温かさをじんわり感じられる映画だ。

Text/SYO

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SYOプロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆、トークイベント・映画情報番組への出演を行う。2023年公開『ヴィレッジ』ほか藤井道人監督の作品に特別協力。『シン・仮面ライダー』ほか多数のオフィシャルライターを担当。装苑、CREA、sweet、WOWOW等で連載中。TwitterInstagram「syocinema」


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