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この探偵が“異色”すぎる

待望の続編も好評放送中の『探偵が早すぎる 春のトリック返し祭り』。数ある探偵モノの中でも本作の何がそんなに面白いのか。他のミステリーにはない“異色”の魅力を紹介する。

前代未聞にして唯一無二の名探偵・千曲川光!

古今東西、ミステリーには優れた名探偵がいる。だけど、そんな名探偵たちの唯一の弱点と言えば、事件が起きてからでないと動かないこと。複雑怪奇な謎を解き、犯人を捕まえることはできても、殺された被害者の命を救うことはできない。
しかし、本作の主人公・千曲川光(滝藤賢一)は違う。彼は、その優れた頭脳と洞察力で犯罪の匂いを察知し、事件が起きる前に未然に防ぐ。しかも犯罪防御率は驚異の100%。セコムよりもALSOKよりも頼りになるのが千曲川光なのだ。まさに「私、失敗しないので」という安心感があるので、毎回忍び寄る魔の手にハラハラしつつ、この絶体絶命のピンチを千曲川はどう跳ね返すのだろうとワクワクしながら楽しめる。
ミステリーなのに人が死なない“異色”の探偵モノが、この『探偵が早すぎる』だ!

滝藤賢一×広瀬アリス×水野美紀の掛け合いに爆笑!

本作が“異色”である理由をさらに付け加えるなら、ミステリーなのにベースがコメディであること。千曲川は腕は有能だが、性格は変人。日頃から尊大な態度で周囲を振り回し、トリックを暴いたときも得意げになって犯人をおちょくり倒す。そのくせ常に貧乏で、空腹のあまり道端で行き倒れるなど社会適合性はゼロ。日本には「見た目は子ども、頭脳は大人」な名探偵がいるが、千曲川は「見た目は大人。性格は子ども」な名探偵。それを滝藤賢一が嬉々と演じるから笑いが止まらない。
そんな千曲川を迎え撃つのが、もう1人の主人公・十川一華(広瀬アリス)と橋田政子(水野美紀)。広瀬アリスの振り切った顔芸とキレのいいツッコミ、水野美紀の無表情でボソッと面白いことを言うキャラクターが相乗効果を生み、最強の笑いのトライアングルを形成している。

奇抜なトリックと悪役たちが、ドラマを盛り上げる

もちろんミステリーとしての面白さも十分。本作は、5兆円もの遺産を相続することになった一華と、その遺産を我がものにすべく一華の命を狙う大陀羅一族の攻防を軸に展開していく。その暗殺手法も実に“異色”だ。あるときは毒蜘蛛を仕掛けたり、あるときは液体窒素を使って爆破事故を起こそうとしたり、一風変わった犯行手口につい事件の行方が気になってしまう。
敵役となる大陀羅一族も強烈キャラが勢揃い。注目は何と言っても壬流古(桐山漣)だ。毎回、自信満々に挑むもあっけなく返り討ちに遭うザ・ヘタレ。悪役なのに妙な愛着が沸く“異色”のキャラクターとなっている。近年、イケメンなのにクセの強い役柄を振られがちな桐山だが、その出発点が『探偵が早すぎる』。この調子で、いつか桐山漣にはバイキンマンを演じてほしい。

隠し味は、ヒューマンにしてビターなストーリー

本作の“異色”ポイントをここまで挙げてきたが、最後に王道の魅力も紹介したい。それは、ケラケラと笑っていたはずが、不意に瞼が熱くなるヒューマンドラマであること。その柱を担うのが、一華と橋田だ。母を失った幼い一華の前に現れたのが、橋田。以来、2人は共に過ごしてきた。橋田の厳しい躾に文句をこぼす一華だが、その関係は家族そのもの。何があっても一華を守ろうとする橋田の姿に胸を打たれる。
それを、単なる浪花節ではなく、ビターな後味も散りばめて描くところが、本作の面白さ。一華の前には、大陀羅一族から刺客が次々と送り込まれてくるが、その正体も回を重ねるごとに、どんどん辛く苦しい相手となってくる。特に6話は、心の沈むやりきれない結末。ただ笑えるだけじゃない苦さや残酷さも、『探偵が早すぎる』の隠し味となっている。

『探偵が早すぎる 春のトリック返し祭り』はこちらから▼

横川良明(よこがわ・よしあき)
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。Twitter:@fudge_2002

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