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夢破れども、生きていく人々へのエール

小説家・燃え殻が原作を務めたHuluオリジナルドラマ「あなたに聴かせたい歌があるんだ」。6人の男女がたどる10年間の軌跡を描く本作の魅力を、3ポイントで紹介。

観賞者それぞれの人生とリンクする等身大の群像劇

本作の大きな魅力は、6人の男女による群像劇、その一つひとつに観る者の日常とリンクするような“共感性”が付加されていることだろう。画面に映るのは他人の物語だが、「わかる」と思えるポイントが多数仕掛けられており、あたかも7人目の登場人物のように、自分の17歳→27歳を思い返す鑑賞体験が待っているのだ。役者や小説家、バンドマンにアイドル……。誰もが一度は夢見る職業を目指すも現実は容赦なく、夢破れていまに至る主人公たち。思った通りにいかなかった人生は苦しく退屈で、後悔にまみれているかもしれない。しかし、その中で見つけた幸福も確かにあるはず。無理やり気持ちをアゲようとするのではなく、隣に立ち、目線を少しだけ上げてくれる等身大の物語が、沁みる。

主役級キャストが集結! 10年の月日の流れを魅せる

物語を彩る男女に扮するのは、いずれも実力派の俳優陣。成田凌、伊藤沙莉、藤原季節、上杉柊平、前田敦子が各話の主人公の17歳/27歳を演じ分けている。当たり前のように「自分は夢をかなえられる」と“万能感”が備わっていた高校時代はいまはもう遠く……。各々の輝いていた「過去」と苦闘のただなかにいる「現在」のギャップに、時間の流れとその中で知ってしまった己の限界が滲んでおり、表情一つに各キャラクターが過ごしてきた年月がしっかりと刻まれている。さらに田中麗奈が5人の人生に影響を与えるキーパーソンを儚げに魅せるほか、各話ゲストには木竜麻生や見上愛といった人気急上昇中の面々も。

センスに裏打ちされた、独自性漂う世界観に浸る

本作を手掛けたのは、『サヨナラまでの30分』で確かな演出力を示した萩原健太郎監督。燃え殻の才能に惚れこみ、約4年間のやり取りを経て本作を共作していったというだけあって、画面の端々から熱意が伝わってくる。タイトルともリンクするキリンジ(現在はKIRINJI)の名曲「エイリアンズ」の劇中での多様な響かせ方はもちろんのこと、ふわふわと浮遊しながら回転したり、かと思えば緩やかに平行移動するカメラワークや(エピソードごとに変化が付けられている)、画面のどこかに暗がりが常にあるような抑えた色調・照明など、実験精神が端々に感じられる。一般的な日常劇とは一線を画す、作家性が色濃く反映された世界観にも注目いただきたい。

Text/SYO

SYOプロフィール

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema


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