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技術力×感受性が両立した“豊か”な快作

国内外で実写化された田辺聖子の人気小説をアニメーション映画化し、多くのファンを獲得した『ジョゼと虎と魚たち』。その魅力を3つのポイントで紹介する。

自然描写も、動きも全部!とにかくエモい画面作り

『ジョゼと虎と魚たち』は、車いすで生活する女性・ジョゼと大学生・恒夫のラブストーリー。物語はもちろんのこと、本作ではアニメーションならではの映像表現をふんだんに盛り込み、画面に映る様々な要素で、観客のエモーションを刺激する。

様々な表情を見せる海・差し込む陽光・木々の揺れ等々、心を奪われるような色彩が躍る映像美、町や家はもちろん、家具や本一つひとつの質感すら感じられる描き込み&空間演出に加え、『僕のヒーローアカデミア』等、数々の人気アニメを手掛けるボンズならではの躍動感ある作画(ジョゼと恒夫の出会いのシーンはカメラワーク含めて秀逸!)は見応え十分。“止め画”でもハイクオリティな、技術と感性の結晶だ。

キャラクターの解像度を高めるデザイン・演出・演技

こうした高い表現力が可能にするのが、キャラクターの繊細かつ共感度高めの感情表現と表情の作り込み。キャラクター原案を務めた漫画家・絵本奈央によるかわいらしいキャラクターたちはそれだけで愛着がわくが、ジョゼや恒夫たちが悩んだり葛藤しながら前に向かって進んでいこうとする際の表情の歪み、涙、沈黙、或いは決意や柔らかな笑顔といった感情×表情が、タムラコータロー監督のきめ細やかな演出によって「リアリティ」というレイヤーが足され、私たちの目に飛び込んでくる。

その解像度を高めてくれるのが、中川大志や清原果耶といったフレッシュなキャストの好演。実写で活躍するふたりの“肉体感”のある演技が、ジョゼや恒夫が私たちと同じ世界に実在するような錯覚をもたらしている。

「リアル」と「フィクション」が絶妙に配分された物語設計

ジョゼや恒夫がたどる道のり=物語においても、「ドラマティック」と「リアリスティック」がバランスよく融合している。ふたりが出会うシーンは劇的なものだし、ファンタジックな“空想の世界”や胸が締め付けられるようなラブストーリーとしての見せ場もしっかりと用視されているものの、外出を制限されているジョゼの心情描写や、ある“事件”に巻き込まれた恒夫の生々しい感情の数々、家から一歩出た“外の世界”に存在する偏見や悪意等々(もちろん優しさも)、地に足の着いた設定や語り口が利いている。

細かい部分で言うならば、ジョゼの髪型や服装の変化にも注目だ。ある種、非常に「実写っぽい」演出だが、物語上でも大きなキーとなっており、観る者が彼女に親近感を抱ける一助にもなっている。虚構性と現実性の使いどころの上手さが光る『ジョゼと虎と魚たち』らしい“技”といえるだろう。

Text:SYO

『ジョゼと虎と魚たち』視聴はこちらから▼

SYOプロフィール

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema


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