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向井くんはアリ?それともナシ……?
毎週、SNS上で「それはどうなの?」と熱い激論を呼んでいる『こっち向いてよ向井くん』。つい誰もが感想を語りたくなる本作の魅力を紹介しよう。
向井くんを見ていると、つい何か言いたくなる!
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「いやいや、その言動はアウト」
「あ〜、でもこの気持ちはなんとなくわかる」
そんなふうに観るとつい感想を言いたくなるドラマがある。それが、現在放送中の『こっち向いてよ向井くん』だ。
主人公は、ルックスよし。仕事もできる。性格も優しい。なのに、10年間彼女ナシの向井悟(赤楚衛二)。赤楚衛二の顔面で10年間彼女ナシはさすがにリアリティがないわ〜と言いそうになるはずが、向井くんを見ていると「これは、ないわ……」と妙に納得してしまう。この絶妙なキャラクター設定と、男女の考え方の違いから巻き起こる“恋愛あるある”が、このドラマの魅力。
悪い人じゃないけど、ちょっと残念。カッコいいけど、付き合うまでには至らない。そんな向井くんの“OVER30からの恋の始め方”にきっとあなたも何か一言言いたくなるはず!
“何となく”じゃ手に入らないものを掴むための物語
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「男は女を守るもの」「30歳の記念に高級腕時計をローンで買う」など、そこかしこに見える向井くんの旧態依然とした“男たるもの”という呪い。そもそも向井くんはあらゆることに無自覚だ。
何となく大学まで出て社会に進み、その先に何となく恋愛や結婚があると思っていた。自分がこうしたい、と思ったことはあんまりない。世間がそうだから。で、流されてここまでやってきた。
恋愛をしたいと思ってはいるものの、今のところ「この人が好き」というはっきりした気持ちはない。10年ぶりに再会した元カノの藤堂美和子(生田絵梨花)に対しても、可愛いジェラピケを着た10年前の美和子の面影を追っているだけ。
何となくじゃ何も掴めない時代に、“自分はどうしたいのか”を見つけていく。『こっち向いてよ向井くん』はそのための指針を探す物語なんだと思う。
“女の子=遊ばれてる”って誰が決めた?
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向井くんの失敗と成長を見守る楽しさに加え、さらにこのドラマを面白くしているのが女性キャラクターの本音。
中でも名言製造機なのが坂井戸洸稀(波瑠)だ。「女の子なんて人格はないの」から始まり、グサグサ刺さる名言が連発。
個人的に好きなのが、環田和哉(市原隼人)との恋愛を心配する向井くんに放った「遊ばれてないよ。一緒に遊んでるの」。恋愛の図式において、つい女性を消費されている“弱者”と置きがち。でもそれって自分を“強者”だと思い込んでいる男性側のエゴ。女性だって欲望のままに生きている人はいくらでもいるし、それは決して不毛でもないし、はしたなくもない。
他にも婚活疲れをしている原チカ(藤間爽子)の「思い出す恋がなくて切ないんです」など心に沁みる台詞の宝庫。だからつい誰かと「わかる〜!」と言い合いたくなるのだ。
これは、自分の価値観を炙り出すリトマス試験紙
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さらに、向井くんの妹・武田麻美(藤原さくら)と元気(岡山天音)夫婦の行方も激論必至。結婚した途端、「大黒柱として」と妙なプレッシャーを背負いはじめる元気。麻美は、そんな夫の変化に違和感を覚えるが、当の本人は何が悪いのかまるでわからない。
すれ違う娘夫婦を見守る母・公子(財前直見)の「みんながさ、同じ考えを持たないという時代になったからこそ、麻美がさ、自分はどうしたいんだ、何がしたいんだってことを言わなきゃわかり合えないんだと思うよ」という台詞がすごくいい。
多様性の時代。価値観をアップデートしろと言われて戸惑う人も多いはず。このドラマを観て、向井くんに共感を覚えたり、坂井戸さんや麻美を面倒くさいと思う人もきっといる。
そんな自分の価値観を炙り出すリトマス試験紙になっているところが、このドラマの面白さだ。
Text/横川良明
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横川良明(よこがわ・よしあき)プロフィール
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。Twitter:@fudge_2002