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独創的、だが沁みる!才能が集った家族劇

石井裕也監督、松岡茉優・窪田正孝・池松壮亮・若葉竜也・佐藤浩市が共演した映画『愛にイナズマ』が2月24日よりHulu見放題最速独占配信スタート。本作の魅力を3つのポイントで紹介する。

時代と格闘する奇才・石井裕也監督の才気煥発エンタメ

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

『舟を編む』で国内の映画賞を総なめにし、『生きちゃった』『アジアの天使』『茜色に焼かれる』といったオリジナル作をコンスタントに生み出してきた石井裕也監督。彼が監督・原作・脚本を手掛けた『愛にイナズマ』もまた、鋭さと愛おしさが融合した快作だ。コロナ禍真っただ中で、大切な企画を奪われた映画監督が“反撃”を開始する! その手段は、疎遠だった家族と10年ぶりに再会することだった!? …という設定の面白さに始まり、物語が進むにつれ、どんどん予想外の展開を見せて心をわしづかみにする。コメディ・家族ドラマ・社会派・エンタメ――時代と格闘し、圧倒的な熱量で打ち返してきた石井監督にしか描けない独創性が全編に満ち満ちているのだ。なお、Huluでは本作の出演キャストの貴重なインタビューを収めた特別映像集も配信中。こちらも併せて楽しんでいただきたい。

喜・怒・哀・楽…観る者の感情を振り回し続ける独創性

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

自分の家族を題材にした映画の企画を他人に奪われ、ならばと本物の家族を出演させた自主映画で対抗しようとする新人監督・花子(松岡茉優)。しかしその制作は前途多難で……というストーリーを基軸にした『愛にイナズマ』は、一言で言えない=類似作が見当たらないのが大きな魅力。コロナで他者との接触が禁じられた日常をシニカルに描きつつ、他者の不幸をエンタメ化して搾取する世相、若い才能を潰す映画業界の問題点を臆せず言及する“攻めた”映画の要素を持ちながら、ぎくしゃくしているのに愛らしい家族の会話で笑わせ、バラバラだった彼らが結束するドラマで涙腺を刺激してくる。これまでの作品で「愛」という熱量を火の玉ストレートで繰り出してきた石井監督の系譜がしっかり感じられる作家性強めのテイストだが、破天荒でありつつ、とっ散らかっていないためラストにはしっかり「いいものを観た…」と満足感が残るのも上手い。「なんだこれ!?」→「攻めてるなぁ」→「わかる!」と感情がどんどん変遷してゆく快感――まずは再生ボタンをタップし、開始5分だけでもトライしてみてほしい。きっと未体験の面白さに引きずり込まれるはずだ。

松岡茉優、窪田正孝ほか豪華出演陣のキレッキレな力演が秀逸

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

観る者をぶん回してくる意欲作で躍動するのは、日本映画界屈指の俳優陣。主人公の花子を演じた松岡茉優が、身を裂かれるほどの悔しさを味わいながらも奮起する姿をパワフルに魅せる。家族の前だと異常に口が悪くなる豹変ぶり、だがそれは愛情の裏返しといういじらしさ……。彼女に振り回される父・佐藤浩市、長男・池松壮亮、次男・若葉竜也のファニーな演技もたまらない(家族喧嘩のシーンはついつい笑ってしまうはず!)。猛スピードで突き進む物語の中で、「観続けたくなる」魅力的な家族像を形成している。そして、花子と運命的に出会い、映画制作を手伝う青年・正夫(窪田正孝)のつかみどころのない存在感。地に足のついていないふわふわした雰囲気を持ちながら、どこか哀愁が漂っていて目が離せない。四人家族+他人一人の奇妙なチームが、たまらなく愛おしく思えてくる瞬間にぜひ立ち会っていただきたい。余談だが、花子を陥れる2人……三浦貴大扮する助監督・MEGUMI演じる映画プロデューサーも鮮烈。両者のハマりぶりも作品に大きく寄与している。

Text/SYO

プロフィール SYO
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆、トークイベント・映画情報番組への出演を行う。2023年公開『ヴィレッジ』ほか藤井道人監督の作品に特別協力。『シン・仮面ライダー』ほか多数のオフィシャルライターを担当。装苑、CREA、sweet、WOWOW等で連載中。X・Instagram「syocinema」