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義兄弟の濃密な絆を描くヤクザ映画の傑作

犯罪組織の血生臭い権力闘争とその中で固く結ばれたヤクザの兄貴と潜入捜査官の絆。『新しき世界』

ダークでシリアス、重厚で濃密なヤクザ映画の歴史的傑作

巨大な犯罪組織ゴールドムーンの構成員イ・ジャソンは組織のNo.2幹部であるチョン・チョンの舎弟として非情な裏仕事をこなしていた。しかしジャソンの正体はゴールドムーンを壊滅させるために警察から送り込まれた潜入捜査官だった。長年に及ぶ危険な潜入捜査に嫌気が指していたジャソンは上司のカンに任務離脱を申し出るが、ゴールドムーン会長の急死による後継者争いが起きたことからさらに危険な極秘作戦「新世界プロジェクト」を言い渡される。非情な暴力、組織の権力闘争をどこまでもダークでシリアスに、そしてヤクザの兄貴と潜入捜査官の義兄弟の絆をどこまでも熱く切なく描いたのが『新しき世界』です。往年のマフィア映画のような重厚なトーンに「愛」と呼ぶべき義兄弟関係の機微を描いたことでヤクザ映画の新たな金字塔となりました。

非情なバイオレンスの中にある、義兄弟と任務の間で揺れ動く絆

映画は冒頭から組織の裏切り者に漏斗でコンクリートを飲ませて海に沈めるという極めて暴力的なシーンから始まります。他にも突発的な暴力やヤクザ同士の刃物を使った殺し合いなどまさに血で血を洗う権力闘争が描かれます。そんな暴力塗れの世界でもう一つ描かれるのがチョン兄貴と舎弟ジャソンの義兄弟の絆です。白スーツにサングラスの陽気なチョン兄貴と常に無口で冷静なジャソン。一見全く嚙み合わない二人ですが言葉の端々に信頼関係を思わせる確かな絆があります。しかしジャソンはあくまで警察で潜入捜査官。長年に及ぶ潜入で心までヤクザになってしまっているのではなかろうか、そしてこの"絆"は任務のための偽物なのか、それとも…。そんな揺れ動く気持ちに寄り添うように流麗で切ないメインテーマ曲が流れるのです。

韓国を代表する名優たちの圧倒的な演技と表情が胸を打つ

潜入捜査官イ・ジャソンを演じるのはイ・ジョンジェ。近年主演ドラマで世界的にも高く評価された演技派ですが、この映画でもスマートな立ち姿、徐々に生気を失っていく表情、絶望と怒りに静かに震える目などの演技が本当に素晴らしい俳優さんです。チョン・チョン役はファン・ジョンミン。コメディからシリアスまで何でもこなせる持ち味を活かした、陽気なヤクザと追い詰められた時の鬼気迫る演技が見ものです。そしてハン役のチェ・ミンシクはヤクザも警察の部下も脅すような憎たらしい初老刑事である一方で人間的な一面も見せる見事な演技が光ります。他にもチョン兄貴のライバルで笑顔が印象的なジュング役のパク・ソンウンもいい化学反応を起こしています。この名優たちの腹の探り合いと騙し騙されの駆け引きが見ものです。

エンディングまで刮目せよ。義兄弟の最高湿度の絆。

潜入捜査映画の醍醐味と言えば警察の任務と潜入先での絆で揺れ動く主人公の心ですが、この『新しき世界』ではその揺れ動く心を直接的な台詞や演技で映しません。ジャソンはチョン兄貴のことをどう思っているのか。一方チョン兄貴の方も"ブラザー"(ジャソン)のことをどう思っているのか。それはわずかなやり取りと事実関係の提示だけで示されているのです。だからこそ無限の解釈と読み解きが可能となっています。そしてこの映画は最後まで気を緩めないで見て下さい。ジャソンとチョン、かつての二人の姿をほんの一瞬見せることでこの義兄弟がここまで歩んできた歴史と、この世界がもう完全に変わってしまったことを示して完璧な終わりを迎えるのです。

Text/ビニールタッキー


ビニールタッキー プロフィール

映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」管理人。海外の映画が日本で公開される際のおもしろい宣伝を勝手に賞賛するイベント「この映画宣伝がすごい!」を開催。Twitter:@vinyl_tackey

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