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女の日常を描くバカリズムの軽妙な狂気

脚本を手がけた『ブラッシュアップライフ』が大きな話題を呼んだバカリズム。そんなバカリズムワールドの原点と呼べるのが『架空OL日記』。この妙味を今こそ堪能あれ!

バカリズムが放つ、リアルでユーモラスな女子トーク

© 2017「架空OL日記」製作委員会

バカリズム脚本の魅力。それは、どこにでもいそうな人たちのなんでもない会話を、誇張も歪曲もせず、とことんリアルに、とびきりユーモラスに書く力。その才は、この『架空OL日記』でも存分に放たれている。

舞台は、とある銀行。そこで働くOLたちの雑談が本作のメインディッシュだ。その内容は取るに足らないものばかり。嫌いな上司に対する容赦ない悪口から始まって、マツモトキヨシのことをマツキヨではなくマツモトキヨシと呼び続ける先輩の話だったり、ご飯をほとんど噛まない後輩の話だったり、「わざわざドラマですること?」とツッコみたくなるような内容のオンパレード。なのに、ついつい笑ってしまう。

女心がわかりすぎ!“あるある”の連発に共感必至

© 2017「架空OL日記」製作委員会

カフェで隣に居合わせた女の子たちの会話を盗み聞きしているような面白さに、気づけばどっぷり浸かっているはず!

女性の日常を描くことに定評のあるバカリズム。本作にも「自分で設定したアラームのスムーズ機能にイライラする」「美容部員さんにリップを塗ってもらっているときに息を止める」など、ささやかながら身に覚えのある“あるある”がつまっていて、「わかる〜」と画面に向かって話しかけてしまいそうになる。

さらに、その面白さを膨らませているのが、バカリズム演じる「私」の心の声。ダイエットに燃えながら、つい食事の誘いに負けてしまう後輩からの決意のLINEを「なんか書いてあったけど、ブヒブヒとしか読めなかった」と一刀両断するなど、的確で毒のあるツッコミにますますハマること間違いなし。

女性が観れば、「なんで私たちのことがこんなにわかるの?」と驚くだろうし、男性が観れば理解不能な女心が少しは掴めるかも?

思わず会社に行きたくなる?曲者キャラが勢揃

© 2017「架空OL日記」製作委員会

そんなバカリズムによる人物描写もたまらなく味がある。

特に毎回笑いを誘うのが、紗英ちゃん(佐藤玲)だ。2年で壊れたハロゲンヒーターを見ながら「ハムスターも2年くらいですよね」と突然ハムスターの寿命の話をしたり、お決まりのカフェで毎回上司の悪口を言いすぎたせいで、「先輩に『お茶行かない?』って言われた時点で、羽田(上司のあだ名)にめっちゃムカつきます」と言い出したり。不思議ちゃんの3歩手前、でもそこがたまらなくチャーミングという愛すべきキャラクターになっている。

他にも、勤務中はナースサンダルではなくパンプスを履くよう周囲に注意しながら、自分はしたたかにパンプスを使い続けている酒木先輩(山田真歩)など、地味だけどクセのあるキャラが勢揃い。こんな職場なら会社に行くのがちょっと楽しくなりそう!

夏帆から三浦透子まで。実力派によるとぼけた会話劇

© 2017「架空OL日記」製作委員会

主人公である「私」を演じるのは、バカリズム本人。見た目は明らかにバカリズム。でも、不思議と女子のコミュニティに馴染んでいる。そこが、このドラマの醸し出す、ちょっと狂気めいた浮遊感の要因だ。

さらに、近年俳優としての評価がうなぎ上りの夏帆を筆頭に、臼田あさ美、山田真歩と『ブラッシュアップライフ』にも出演した実力者たちが、平熱感のある演技でオフビートな会話劇に笑いをもたらしている。

そして見逃せないのが、「私」の後輩社員として準レギュラー的に登場する三浦透子。この頃から抜け目なく三浦を起用しているあたりは、バカリズムなのか、あるいはプロデューサーの慧眼としか言いようがない。

肩肘張って観る必要はなし。寝る前に、あるいは食事のお供に、噛めば噛むほど面白い女子トークを存分に味わってほしい。

Text/横川良明

▼架空OL日記はこちらから

横川良明(よこがわ・よしあき)プロフィール
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。Twitter:@fudge_2002

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