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曲がった背筋、伸ばしていこう!

2023年の秋ドラマの中でも「名作」と高い評価を得た『セクシー田中さん』。本作のどんなところが現代を生きる人たちの心を掴んだのだろうか。

人は変われる。変わっていける。

©︎芦原妃名子/小学館/NTV

セクシー田中さん』を見ていると、勇気が湧いてくる。それは、本作が「人は変われる」ことを描いたドラマだからだ。

主人公は、経理部の独身OL・田中さん(木南晴夏)。仕事は優秀。だけど、小さい頃から地味な見た目をからかわれることが多く、40年の人生の中で一度も友達も恋人もできたことがなかった。

背筋を曲げて、俯きがちに歩いていた田中さんは、ベリーダンスと出会ったことで変わっていく。人生に正解はない。だから人は迷う。でも正解がないのなら、せめて自分がこうありたいという正解を自ら選び取って生きていくしかない。

他人に「枠外」と白い目で見られようと、自分にとって大切なものがあれば、胸を張れる。いつかダンサーとして独り立ちできる日を夢見て、コツコツと練習に励む田中さん。そのピンと伸びた背筋は、私たちは勇気をもらうのだ。

私たちには、もっといろんな可能性がある。

©︎芦原妃名子/小学館/NTV

『セクシー田中さん』は、そんな田中さんとの関わりを通じて、周囲の人々が「変わっていく」物語でもある。その筆頭が、派遣OLの朱里(生見愛瑠)だ。常にモテ続けてきた朱里は、一見、田中さんとは真逆のタイプ。でも、2人は根っこの部分でよく似ていた。

朱里もまた自分には価値がないと思い込んでいた。男の人が見ているのは、自分の若さと可愛さだけ。でもいずれそのどちらも衰えていく。就活に失敗し、派遣しか道のなかった自分が安定を得るには、男性の収入にすがるしかない。不毛な婚活ですり切れていた朱里の心は、田中さんと出会ってたくましさを取り戻していく。

若さと可愛さだけが女の価値じゃない。私たちには、もっといろんな可能性がある。少しずつ自分のやりたいことを見つけていく朱里。そんな田中さんと朱里の友情に、爽やかな感動を覚えるのだ。

男たちもまた呪いと戦っている。

©︎芦原妃名子/小学館/NTV

田中さんと出会って変わるのは女性だけじゃない。男性もまた変わっていく。中でも大きな成長を遂げるのが、笙野(毎熊克哉)だ。男尊女卑思想の強い笙野は、40歳の田中さんを「オバサン」呼ばわり。田中さんがベリーダンスをしていることを知ったときも「痛々しい」と吐き捨てる。

笙野の因習的なジェンダー規範の根底にあるのは、父親だ。「男なら泣くな」「男が台所に立つもんじゃない」と抑圧を受けてきた笙野は、その後遺症で女性に奥床しさや淑やかさを求めるようになった。

他にも、一流大卒の学歴と商社マンの肩書を手にした途端、女性たちが目の色を変えるようになったことから、「男の学歴・年収と、女の若さ・可愛さは等価交換」という考えに支配されてしまった小西(前田公輝)など、男の呪いもしっかり描かれているのも、このドラマの魅力だ。

『セクシー田中さん』は今この時代に必要なドラマだ

©︎芦原妃名子/小学館/NTV

現代にはびこる、さまざまな生きづらさ。みんな、ちょっとずつ心を削りながら、なんとかこの社会で生きている。

だから、いろんなしがらみに足をとられながらも、自分の目指す方向へまっすぐ歩いていく田中さんたちの姿に、多くの人が心を寄せたのだと思う。『セクシー田中さん』は今この時代に必要なドラマだった。

さらにHulu では、田中さんや朱里が通うベリーダンス教室の人々をメインとしたHuluオリジナルストーリー『メンターMiki先生』も独占配信中。こちらでは、Miki先生(高橋メアリージュン)が、生徒たちの悩みに対して、中東のことわざを交えながら救いの光を当てていく。その内容も、7年も付き合っているのに結婚に踏み切ってくれない彼氏の話や、理想の恋人に出会えない恋活疲れなど、共感必至のエピソードばかり。ぜひチェックしてほしい。
Text/横川良明

Text/横川良明
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。X:@fudge_2002


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