狩野さんの拒否 part6

梅雨の時期になり、狩野さんの訪問に入り始めて4か月がたった。
少しずつ口から食事がとれるようになった。
食事と言っても、ゼリーや果物、飲み物のエンシュアリキッドなど。
ちょうど、北海道の友達でエンシュアリキッド飲んでいる人がいて
エンシュアリキッドのメロン味を届けてくれたので、狩野さんに飲んでもらった。
「うまいなあ」と少し笑った。

時々、機嫌が悪い時があり 排泄介助の声掛けに「いや!!やめて!!警察さーん」と大声で叫び、強くズボンを握ることがあった。
隣に聞こえるのではないかと思うくらい大きな声で叫ばれ、しばらく時間をおいてから介助させていただいた。その時にはまた、眠っていたので拒否なくスムーズに交換できた。
それにしても、あの声とあの力・・・本当に強い力だった。
「狩野さん、交換終わったよー」って声をかけると
狩野さんがぱっと目を開けてこう言った。
「いやな思いさせてしまってごめんなさいね。」

(え????
狩野さん、うそでしょ??)
その言い方があの頃、施設で話をしていたころのお母さんの話し方に戻っている気がした。
「いやいや、こちらこそごめんなさいね。あまり無理して介助しないようにしているつもりだけど、嫌だよね。排泄介助は誰だってあまりいい気持ちがしないから。ごめんなさいね」と伝えると
「私もあまり言わんようにしているんだけど、やっぱり嫌な時もあるですが。だから、あんたたちにも嫌な思いをさせてしまって申し訳ないと思ってる。でも、あんた達はちゃんと親切に説明してくれるけありがたいと思っとるで」と、話された。

これは夢なのだろうか。
狩野さん、訪問してから「ありがとう」の言葉しか聞いてなかったのに
今日は、すごいたくさん話してくれている。しかも上手にぺらぺら話している。
そして、なんて人に気を遣われる方だろう。
施設に面会に来てくれる時からそうだった。
「いつも娘が迷惑かけてごめんなさいね」とよく言っていたのを思い出した。

それからの訪問も時々、大声で叫んだり、拒否がみられることも多くあった。
その時は少し時間を置くか、一旦退去し、時間をおいて訪問するか、ヘルパーを交代して訪問した。
全く口をきいてくれない時もあるが、少しずつ会話のキャッチボールが出来るようになった。




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