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〜ちょっと知るだけでファッションがもっと楽しくなる〜 意外と把握されていない「織物」と「編み物」の違い

今年から、noteをスタートさせていただきまして、今回で3回目の記事となります。

僕は2014年から「HUIS -ハウス-」という遠州織物に特化したアパレルブランドを展開していまして、その中でいろいろとさまざま考えることもあり、都度書いていければ、と思ってはじめました。

というなかで、第2回目に「農産物と同じはずの“繊維産地”が、ほとんど知られない理由」という記事を書かせていただいたのですが、思いのほか、たくさんの方に読んでいただけてすごく嬉しく思うとともに、遅ればせながらnoteはじめてみてよかったな、と思っています。

HUISのSNSやブログで書く記事については、ご愛用いただいているファンのみなさんがおかげさまでよく読んでくださっていて、お伝えしたいことが伝わっていてありがたいな、と思っているのですが、noteでは少し個人的な視点から書いています。

それはそれで僕自身がすごく新鮮な気持ちであるとともに、この記事をご覧いただいている方も、HUISのフォロワーさんだけでないまた違った方々(ふだんnoteを読まれている方)に届いている、という感じがしてそれも新鮮な嬉しさです。

よくわからないのは、ごく一般的な感覚

さて、今日は表題にある『意外と把握されていない、「織物」と「編み物」の違い』という内容について書いていきたいと思います。
(アイキャッチ画像に使ったのは前身頃が「編み物」で背面が「織物」の珍しいワンピースです)

これはつい先日、地元の浜松市に住む知人の方から、「HUISさんって遠州織物の洋服を作られているんですよね、今の時期はセーターとかも作っているんですか?」という素朴な質問をいただいて、「あ、いや、遠州織物は織物なので、編み物のセーターとは違うんですよ」と素朴な解説をさせてもらったところ、「あ、そうかセーターって編み物なんですね!織物とは違うんだ」となんとなくピンときてくださったことがあったので、あらためて書いてみようと思いました。

正直、遠州織物の産地たる浜松市でも、こういった話題が出るくらいの理解のされ方なのが遠州織物なのですが、こういう感覚はほんとにそうで、実際、僕も遠州織物のことを知る前は、まったくそんな感覚でした。浜松市で生まれ育ってきたのに。

以前、機屋さんに行ってそんな話題になった時に、「テレビの方が取材に来たんだけど、さんざん織物の説明をした後に、『ところでこの編み物って…』とか聞かれてびっくりしちゃった」なんてことをおっしゃってた話をよく覚えています。

だから、生地を作る人にとってはすごく基本的なことなんですが、一般の人にとってはなかなかピンときづらいことなんですね。

そういえばちょっと前にも、起業の熱意にあふれる若い方から「松下さん、僕はいつか最高品質のTシャツのブランドが作りたいと思っていて、遠州織物の職人さんを紹介してください!」という相談をいただいたことがありました。
「浜松は織物しかないので、最高のTシャツを作りたかったら和歌山県が産地だから調べてみるといいよ!」とお話しました。「和歌山調べてみます!」と答えてくれていたのですが、そのくらいの感覚の方が、きっとフラットに産地のことに興味を持って、発信することができると僕は思います。一般のお客さまは、その感覚だってことを肌に感じているので。

「織物」と「編み物」の基本的な違い

さて本題の、「織物」と「編み物」の違いについて、今回はすごく基本的なことをゆっくりと説明させていただきます。

※こちらの記事で興味を持たれた方は、より段階を分けて詳しく解説したコンテンツをHUISでは設けています。よければそちらも↓ご覧ください。

■「生地のコト、産地のコト」シリーズ(HUISウェブサイト)


かんたんに言うと、「織物」というのは、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)がある生地です。「編み物」というのは、経糸(たていと)はなく緯糸(よこいと)だけで編んでいく生地です。

織物
HUISウェブサイト「生地のコト、産地のコト」より)
編み物
HUISウェブサイト「生地のコト、産地のコト」より)


ちなみになんですが、タテイトとヨコイトは、地球の経線・緯線とおなじ漢字の「経糸」「緯糸」と書きます。「縦糸」「横糸」と書いてしまうと、機屋さんにすぐ訂正されます。

「織物」は、タテ糸とヨコ糸を直角に交差させることでできる生地のことです。「織機(しょっき)」を使って織られます。織機にかけられ並んだ経糸が上下する間を、緯糸が走っていくことで、織っていきます。絵にすると、↓ということです。

織る
HUISウェブサイト「生地のコト、産地のコト」より)
織機(しょっき)
HUISウェブサイト「生地のコト、産地のコト」より)

一方、「編み物」は、1本の緯糸がループを作っていき、そのループ同士を連結させることでできる生地のことです。丸編み機、横編み機、などで編まれますが、“おばあちゃんの手編みのマフラー”がイメージしやすい身近な編み物です。

編む
HUISウェブサイト「生地のコト、産地のコト」より)
丸編み機
HUISウェブサイト「生地のコト、産地のコト」より)


「編み物」の国内産地

それでは続いて、それぞれの生地を作っている国内の産地のことを紹介させていただきたいと思います。

農産物と同じはずの“繊維産地”が、ほとんど知られない理由」という記事で、繊維産地の一覧を紹介しているので、そちらの分布もぜひイメージしながら読んでもらうとわかりやすいかもしれません。

先に、「編み物」の産地から紹介したいと思います。

新潟 → 横編みニット
和歌山 → 丸編みニット
奈良 → 靴下

が有名な産地です。

実際「編み物」というとどんな製品があるか、というと、セーター、マフラー、Tシャツ、下着、靴下などが「編み物」にあたります。これを当てはめると、

新潟 → 横編みニット(セーター、マフラー)
和歌山 → 丸編みニット(Tシャツ、下着)
奈良 → 靴下

となります。

靴下、も編み物です。Tシャツなどと基本的に同じ構造の丸編み機で編まれるんですが、Tシャツなどの丸編み機よりもとても小さく、ぐるぐると丸く編まれてそのまま足にすっぽり入るサイズで編んでいく機械です。

丸編み機は、ひたすらぐるぐると丸く編んでいく機械です。
動いているところを見てもまだその構造がイメージしづらかったりするのですが、とはいえHUISで動画を用意しているのでよろしければご覧になってみてください。

(HUIS in house カットソー生産工程)


一方、横編み機は、基本的にはおばあちゃんの手編みのマフラーを作る構造で、横向きに行ったり来たり往復しながら編んでいく機械です。

横編み機
HUISウェブサイト「生地のコト、産地のコト」より)

五泉市の「五泉ニット」などが有名で、伝統的な産地ですが、現在はかなり小規模になってしまっていると聞いています。


「織物」の国内産地

そして最後に、「織物」の産地についてです。

和服の生地産地についてはまた多様なため、今回はアパレル生地を作る主な産地を、どんな素材を使って織るか、という分布に分けてご紹介します。

静岡・遠州 → 綿(コットン)
愛知・三河 → 綿(コットン)
兵庫・西脇 → 綿(コットン)
岡山 → 綿(コットン)
広島 → 綿(コットン)
群馬・桐生 → 絹(シルク)
山梨・富士吉田 → 絹(シルク)
愛知・一宮 → 毛(ウール)
滋賀 → 麻(リネン)
北陸 → 化学繊維(ポリエステルやナイロンetc)

綿や麻織物の産地になっているところは、もともと温暖で日照量が多く、綿花が育ちやすい地域です。
一方、内陸部に絹織物、北陸は化学繊維と、地域の気候条件に合わせた分布になっているのがよくわかると思います。

なお和服を含めた生地産地については、先にご紹介した【生地のコト、産地のコト】シリーズのうち、「産地のコト編」で今年詳しく発信させていただく予定でいます。

ちょっと知るだけで、ファッションはもっともっとおもしろくなる

今回は、『意外と把握されていない、「織物」と「編み物」の違い』という内容で書いてきましたが、その違いをあらためて確認し、国内の産地とともに少し知るだけで、アパレル・ファッションの世界がすごくおもしろく感じるきっかけになると思います。

あ、これは織物だ、これは編み物だ、と思うだけでもちょっと新鮮だし、そういう生地を作っている産地のことをイメージすることもできます。
そして、そうした日本における繊維産地はすべてが、特色ある独自の技術を持った世界有数の産地です。そんな産地を訪れ、見ることができるなら、きっと何よりの経験になると思います。


最後にですが、遠州という地域は冒頭説明させていただいていた通り、本当に織物しか作っていません。他の産地だと、ニットを作ってる工場があったりするんですが、ほんとに一軒もありません。

だけど、ものすごく多様な種類の織物が織られています。機屋さんごとで全然違う織物を織っています。使う糸、規格はもちろん、特殊な織機を使い、特殊な組織を用い、他では絶対織れない、という生地をその技術力をいかんなく発揮して生産しています。
他産地では織れない、にとどまらず、もはや産地内でも誰にも織れない俺だけの生地を織る、という感覚です。でも、織物しかやらなかったのです。

そういう遠州らしい潔さや、こだわりが、僕はすごく好きだし、誇らしく思っています。

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