実家から逃げた独立生計大学生がJASSOの給付奨学生になった話

はじめに

実家で暮らしている大学生のなかには,さまざまな事情で,実家から物理的かつ経済的に独立したいと考えている人がいます.
JASSO(日本学生支援機構)の給付奨学金は,そのような人たちを経済的に支援しうる心強い制度です.
実際,この奨学金に独立生計者として採用されれば,学費が減免されるだけでなく,国公立大学生は毎月最大で66,700円,私立大学生は最大75,800円を受給することができます.

この記事は,実家から独立した私が,JASSOの給付奨学生になるまでの体験談です.
実家から独立したい方や,実家から独立したけれど給付奨学金の申請をためらっている方の参考になれば幸甚です.

独立~申請前夜

私は,国公立大学の理系学部に所属する学部3年生です.

学部1年生の間は実家で親と暮らしていましたが,親のDVを我慢することができなかったため,学部2年生に進級する直前の春休みから勝手に家出をして一人暮らしを始めました.
私は貯金が潤沢にあったし,親が家出後の私の所在を執拗に追求することはなかったため,スムーズに一人暮らしに移行できました.

学部2年生の間は,給付奨学金を申請(したがって,受給)していませんでした.
また,大学独自の学費減免制度も利用していなかったので,学費を全額自分で支払っていました.
もちろん,仕送りなどの親による経済的支援は一切ありません.
しかし,以下の工夫をすることで,なんとか生計を維持することができました.

第一に,大学から徒歩圏内にあるアパートのなかから,家賃がもっとも低い場所を選んで入居しました.
こうすることで,毎月の最大の支出項目である家賃と,日々の通学にかかるコストを低く抑えることができます.

第二に,とにかく支出を切り詰めました.
日々の生活を維持するのに必要でない出費はなるべく省きました.
具体例を挙げればきりがありませんが,もっとも効果が大きかったのは,毎日の朝食・昼食をともに抜いたことでしょうか.
最初は厳しかったですが,だんだん体の方が順応していきます.

第三に,まかない付きのアルバイトにたくさん入りました.
朝食・昼食を抜いても生活を維持できていたのは,夕食として無料のまかないを胃袋いっぱいに詰め込んでいたからです.

第四に,キーエンスの応援給付金に応募しました.
この給付金は学部2年生以上を対象に,30万円を一括で給付するものです.
私はこの給付金に採用されたため,コストをかけずに30万円を得ることができました.

このようにして,学部2年生の間は学費をのぞく毎月の収支をほぼ均衡させることができました.
収支を均衡させていたおかげで,独立以前から所持していた貯金を減らさずに済んだため,学費もこの貯金からまかなうことができました.

しかし,このような生活が面白くないことはいうまでもありません.

周りの大学生は,どこかで購入したペットボトルを持って立派なアパートから登校し,学食で昼食・コンビニで間食を食べ,帰宅し,UberEatsでデリバリーした夕食を食べて一日を終えるようです.
水道水を詰めた水筒を持ってボロアパートから登校し,昼食を抜き,バイト先に出向き,働き,無料のまかないで己の胃袋を満足させ,帰宅して一日を終える私とはまるで対照的です.

この生活の差は,おもに親からの仕送りと奨学金の有無に起因するものです.
私の場合,親からの仕送りは望めませんし,望んでもいません.
それならば,奨学金を受給し,少しでも豊かな生活を送りたい.
そう考えるようになりました.

申請前にしたこと

給付奨学金の在学一次採用(4月定期採用)への申請を目指して,学部3年生に進級する直前の春休みに動き始めました.

申請前に困ったのは,生計維持者をどうするかについてです.

奨学金を申請する際には,当該学生の生計維持者(生活費や学費を負担している者)を申告する必要があります.
JASSOは,たとえ学生本人が完全に独立して生計を維持していたとしても,親が存命しており,かつ特別な事情がない限り,生計維持者を学生本人として申請することを認めていません.
すなわち,親が存命する場合には,独立生計という実態の有無にかかわらず,原則として生計維持者を親としなければならないのです.

もっとも,たんに申請書類の生計維持者欄に親の名前と住所を書くだけで申請できるのなら何の問題もありません.
しかし,申請の際には,生計維持者のマイナンバーと自筆の署名を提出する必要があるのです.
私は親と別世帯であり,かつ絶縁状態ですから,親のマイナンバーも,親の自筆署名も取得できません.
したがって,生計維持者を親として申請することは不可能でした.

ただし,JASSOは,特別な事情があれば学生本人を生計維持者とする(独立生計維持者とする)ことを認めています.
特別な事情の例として「父母からのDVを逃れるために別居していて、日常的に学費や生活費を本人が負担している場合」が挙げられています.
私はこのケースに妥当しているため,独立生計維持者として申請できると考えました.

ところが,その場合には「事実関係が確認できる証明書類の提出を求める場合があ」るようです.
DVを受けた際に,公的機関に相談していれば,その機関が発行する書類を提出すればよいと思います.
しかし,私はもとから公的機関を信用していなかったので,どこにも相談しませんでした.
したがって,どんな書類を用意すれば私が受けたDVを確認できる証明することができるのか,よくわかりません.
私が用意できるどんな書類も,DVの事実を証明できないかもしれません.

結局,親を生計維持者とするにせよ,独立生計維持者とするにせよ,壁にぶつかってしまいました.
そこで,以上の点をJASSOの奨学金相談センターに問い合わせることにしました.

問い合わせの結果,私は独立生計維持者に該当するが,そのことを証明する書類については,所属する大学の奨学金担当に相談せよ,という回答を得ました.
この回答を踏まえ,所属先の奨学金担当に私の事情を説明した上で,「私はどんな書類を提出すればよいのか」と問い合わせました.
すると,「JASSOに確認したとこと,あなたは給付奨学金に申請できない」という驚くべき回答が返ってきたのです.

私は「独立生計維持者として給付奨学金に申請できる」というJASSOの回答を前提として,大学に問い合わせを行っていました.
その前提が同じJASSOによって覆されてしまったことには納得がいきません.
JASSOの回答が矛盾していることを大学に問い合わせると,大学から再度JASSOに確認すると言われました.
大学によるJASSOへの再度の確認の結果,私は独立生計維持者として,その事情を証明する書類を提出することなく給付奨学金に申請できることがわかりました.

なお,以下の一連のツイート(ツリー)によれば,学生が独立生計維持者であるか否かの確認業務は,JASSOから大学に一任されているようです.

とくに,DVからの避難を理由に独立生計維持者となった場合,大学が学生に確認するのはDVの有無です.
私の所属先のように自己申告でDVの有無を認定する大学もあれば,第三者の発行する書類がなければ認定しない大学もある,ということが書かれています.

申請手続き

生計維持者を学生本人として,4月末に申請書類を大学へ提出しました.
自宅外通学であることの事情を説明する欄には,DVを我慢できずに家出したことを記述しました.
それ以外には,特別なことはしていないと思います.

採用

7月中旬に,JASSOから116,800円(4月〜7月分の奨学金)が自分の口座に振込まれたため,給付奨学生に採用されたことがわかりました.

7月下旬に,奨学生証と,自宅外通学への変更手続きの案内が届きました.
JASSOの給付奨学金は,自宅外通学(月額最大66,700円)と自宅通学(月額最大29,200円)で給付額が異なります.
自宅外通学生が自宅外通学の給付額を受け取るためには,採用後に自宅外通学への変更手続きを行わなければなりません.
2024年8月現在,その変更手続きを終え,審査の結果を待っている状態です.

結論

この記事は,実家から独立したいけれど経済的に独立できるのか不安な方や,実家から独立したけれど給付奨学金の申請を躊躇している方の背中を押すために書きました.
この記事を通じて,DVから避難するために独立生計となり,そのことを理由に,JASSOの給付奨学金を受給することができた人間がたしかに存在する,ということをみなさんにお伝えしたかったのです.

みなさんの学生生活が少しでも豊かになることを心から願っています.



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