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【小説】ある技官、その妻とトキのぬいぐるみ 第34話

第34話 引越し作業中

 皆さん、花粉の多い日々、いかがお過ごしでしょうか。
 ハックション…、グスグス……
 今だに内示のでない防A省の技官、筑後川敦です。(※皆さんに実際の映像をお見せできませんが、筑後川敦は遠い目をしています)
 妻がこう言うのです。
「もう! もうもう~。内示がまだ内示がまだっていったいいつ内示が出るわけ? 引越ししろしろっていうのに、行先がわからないんじゃ、どうやって引っ越せばいいわけ⁈」
「……」
 私は毎度のことなので、慣れていますが……。しかたがありません。引越し屋には、行先が確定しているフリをするしかない訳で、妻にそう言いました。
 妻が大慌てて動いてくれましたが、断られること数件。やっとのことで、引き受けてくれる引越し業者があり、そこに決めました。超繁忙期の4月1日に関西から東京へ、大人2人の引越しで〇十万円。防A省では、引越し手当について細かく規定があり、金額の計算は非常にややこしいです。私は忙しい中試算してみましたが、はっきりした金額はわかりません。おそらく全額カバーできそうにない。(急激な値上げに規定が追いつかないのです。残念なことに)つまり赤字です……
 美花ちゃん、怒るだろうなぁ……
 2日後ーー。
 皆さん、どうして引越し業者というのは、生物の名が多いのでしょうか? あるいは会社名はそうでなくとも、キャラクターはパンダだったり、蟻だったり、ラクダ、カンガルー、クロネコ、あ、これは多急便か……
 今回私達が契約した引っ越し業者のマークは、微笑む牛の顔なのです。(牛乳屋と間違えそうです)まあ、そうすると段ボール箱に、その微笑む牛の顔マークが入ってると予想しますよね? 
 ところが、違ったんです。白黒のツートンカラー。白い段ボール箱に、牛の体の模様が黒で印刷されているのです。今まで数多くの引越し業者を使ってきましたが、流石にこんなダンボール箱は初めて使います。
 缶車中、白黒の牛模様となった真ん中で妻がトキのきいちゃんに牛を教えています。
「きいちゃん、これは、牛さんの体の模様なんだよ」
「ウシ…さん?」
「白、黒、白、黒……」
「しぃろ、くぅろ、しぃろ、くぅろぉ」
「なんか…、あたしは今、マ〇ー牧場にいる、って思うことにしたよ。あはは……」
 弥生人顔が疲れています……
 因みに、マ〇ー牧場は妻の故郷である落花生県にある有名な牧場です。おそらく、みんな大好き夢の国、ネズミーランドの次くらいに有名な観光地だと思われます。
 おっといけない。お話したいことはまだありますが、今はとにかく荷物を牛模様の段ボール箱に詰めていかねばなりません。
 年度末で皆さんもお忙しいことでしょう。お互いに健康に気をつけて、乗り切りたいものですね。それでは、また。 


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