政治界の腐敗

❶県職員ならたいてい耳にしたことのある内容

兵庫県の斎藤元彦知事に対して、元西播磨県民局長のW氏(60歳)が衝撃の「内部告発」を行ったのは今年3月のこと。県民、世論から批判が止まることはなく、6月13日、兵庫県議会は51年ぶりに地方自治法に基づく強制力がある「百条委員会」の設置を決めた。県議会からも激しく突き上げられる斎藤知事は崖っぷち、兵庫県庁は大揺れだ。

W氏による内部告発は、齋藤知事のパワーハラスメント、公職選挙法や地方自治法違反などの疑惑、企業から贈答品などの受け取りなど、多岐にわたっている。

そのうち、贈答品については、齋藤知事の側近とされるH部長が、兵庫県内の企業からコーヒーメーカーとトースターを受領していたことも県議会で判明した。H部長は「受け取ったが開封していなかった」「失念していたので、企業に返却した」と説明。結果、この部長が戒告処分を受けたことでも、内部告発の信用性は高まった。

だが兵庫県は、内部告発を行ったW氏に対して「核心の部分は事実でない」「誹謗中傷」として、停職3か月の懲戒処分を発表した。

「W氏の内部告発の中身は、兵庫県職員なら、たいてい耳にしたことのある内容です。大筋では真実です」

こう話すのは兵庫県の現職職員のAさんだ。兵庫県庁本庁舎(神戸市)から徒歩10分ほどの飲食店で「現代ビジネス」の取材に応じた。騒動の渦中に県職員が取材に応じるには、相当の覚悟がいる。Aさんはキョロキョロと周囲を確認しながら店にやってきた。

「誰かがきちんと話さないと、W氏が孤立するので、援護射撃をしなければいけないと思いました……。内部告発を誹謗中傷し、嘘八百と反論している斎藤知事に、県職員は怒り心頭です。日を追うごとに内部告発の内容がと信用性が増してきています。斎藤知事は機嫌が悪くなり、イライラが続いているため、周囲の職員も腫れ物に触るように神経をすり減らしています」(Aさん)

県庁職員が選挙で「斎藤一択だ」と強要

Aさんは内部告発の個別の内容について、説明をはじめた。W氏の内部告発文書で痛烈に批判されているのが斎藤知事の「おねだり」問題だ。文書から引用しよう。

《贈答品の山 斎藤知事のおねだり体質は県庁内でも有名。知事の自宅には贈答品が
山のように積まれている》

《(兵庫県内の)T社と兵庫県はスポーツ連携協定を結んだ。そして、ヘルメット着用のキャンペーンを展開している。そのPR用の写真はT社のロードバイク(約50万円)に跨る知事。そのバイク撮影の後、知事へ贈呈された模様(偽装的に無償貸与の形をとる。ほとぼりが冷めるまで県庁で保管されるなどの小細工がなされているのかもしれません)》

この記述に対して、現役兵庫県職員のAさんが語る。

「たしかに斎藤知事は贈り物が大好きです。誰か訪ねてくると、手土産に何を持ってきたのか、いつも非常に気にしているそうです。

この告発文にあるロードバイクの話ですが、兵庫県は自転車ヘルメット購入応援事業として補助金を制度化しました。自転車のヘルメットといっても基準があって、それをクリアしたものだけに上限4000円まで補助があるというものです。この基準をクリアしているメーカーの一つが、まさに内部告発に名指しされたT社でした。露骨ですね」

内部告発文書では、公職選挙法、地方公務員法違反も指摘されている。文書を引こう。

《(斎藤知事の側近の県幹部らが)「自分は選挙前から斎藤のブレーンだった。お前ら言うこと聞けよ」と恫喝》

《選挙公約の作成、選挙期間中の運動支援など、多岐にわたり選挙運動を手伝った。論功行賞で(県幹部の)4人はそれまでの人事のルール無視でトントン拍子に昇任》

現役兵庫県職員のAさんが証言する。

「県知事選の時に、県庁職員が斎藤知事にすり寄ろうと『斎藤に入れろ』と触れて回ったのは事実です。私自身も内部告発に出ている斎藤知事側近の県庁幹部から、『斎藤一択だ、家族とかまわりにも言ってくれよ』と投票を強要されましたから間違いない。

神戸市内の会社社長からも『県庁職員の〇〇から電話がきて斎藤でと呼びかけられた。県庁職員が選挙運動していいのか』と言われました。後日、会社社長から県幹部が『斎藤に投票してくれ』という内容を送信していたメールも確認しています」

自らの経験も踏まえて語るその内容は迫真に富む。

そして、内部告発で指摘されているパワハラについてはどうだろうか。再度、文書を引用しよう。

《20m手前で公用車を降りて歩かされただけで、出迎えた職員・関係者を怒鳴り散らす》

《知事レクで気に入らないことがあると机を叩いて激怒》 

❷泉氏とのトラブルは自作自演?

しかし、泉氏はX(旧ツイッター)で《でっちあげだった》と猛反発。兵庫県も泉氏に気圧されたのか「問題にしない。泉氏から返答を求めない」と方向転換を余儀なくされた。Aさんが続ける。

「県職員のあいだでは、『泉氏とのトラブルは自作自演だった』とまで囁かれています。斎藤知事は『オレが知事だ』と威張っていますが、泉氏に反論されるとびびってしまし、部下に押し付けて逃げる。情けないです」

W氏による内部告発文書では、昨年の阪神タイガースとオリックスバッファローズの優勝パレードの疑惑も記述されている。県が金融機関に補助金を出す代わりに、寄付を求めていた疑惑だ。

《信用金庫への県補助金を増額し、それを募金としてキックバックさせることで補った》

《パレードを担当したH課長はこの一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たずにうつ病を発症し、現在、病気療養中》

実はこのH課長は、いまはこの世にいない。Aさんが語る。

「今年4月、ゴールデンウイーク前のことでした。急に県民生活部総務課の課長にY氏が着任したのです。この総務課長はH氏が務めていましたが、内部告発に書かれているように、あくまで療養中と聞いていましたから、この人事は県庁内で話題を呼んだ。その直後だったでしょうか、『H氏が自死したから、課長が交代した』という噂が一気に広がったのです」

H課長の死亡については、5月16日の兵庫県議会でも取り上げられている。

「内部告発に書かれていたH氏がお亡くなりではないか」という内容の質問が出たのだ。この文書のなかでは斎藤知事の「側近」として指摘されているI部長が答弁に立ち、「亡くなったかどうか、現時点ではお答えできません」と述べるにとどまった。

だが、複数の兵庫県議は現代ビジネスの取材に対し、異口同音にこう語る。

「H氏が亡くなったことはまず間違いない。本来なら県職員が亡くなると県庁から『訃報』が届くが、H氏については何もない。隠ぺいしているのは斎藤知事だと聞いている」

追い込まれている斎藤知事。2020年の知事選でバックについたのは、大阪府の吉村洋文知事と、安倍派5人衆で兵庫9区が地元の「裏金議員」西村康稔代議士だ。斎藤知事は兵庫県知事になる前は大阪府の財政課長として総務省から出向。維新、吉村知事のお眼鏡にかなったようだ。だが吉村知事は万博で、西村氏は裏金で窮地に立たされており、もはや斎藤知事を援護する余裕はない。

「斎藤知事の大阪府時代ですが、維新の創設者である松井一郎大阪市長(当時)や吉村知事から『おい斎藤』と呼ばれ、平身低頭だった。維新のバックで、兵庫県知事になりそれを真似て、格好いいと思って怒鳴りつけ王様のような態度でいるようだ。斎藤知事の増長ぶりに吉村知事も険しい表情ですよ」(大阪府幹部)

斎藤知事は百条委員会の設置を嫌ったのか、側近の副知事が「辞任を引き換えに設置はしないでほしい」と有力県議に頭を下げさせたが、相手にされなかったという。

「斎藤知事の再選はまずないだろう。来年夏までの任期もまっとうできないのではないか」と自民党の兵庫県議は語り、早くも斎藤知事の「次の知事」の模索がはじまっているという。

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