声優さん
1994年にプロジェクトが立ち上がった「空想科学世界ガリバーボーイ」から
声優事務所ではなく、音響制作会社がボイス関連を仕切ることになりました。
そこでお会いしたのが、マジックカプセル(当時)の三間雅文さんです。
当時、収録現場ではみんなキャストのことを“声優さん”と呼んでいました。
しかし三間さんだけは、「僕は、声優さんのことを“役者さん”と呼んでいるんです」
と、そう言っていました。
現場でも役者さんに対して、最大限の敬意を払っている姿勢が見て取れて
例えば、ちょっとややこしい演技プランについて話す時は
マイク越しではなく、重いブースの扉を走って開けて、直接口頭で説明していました。
収録が終わった時は、ものすごい深いお辞儀をしながら
「お疲れさまでしたー!」と大きな声であいさつをしていました。
この姿勢は見習わなければ……と当時の私は思い、極力三間さんの真似をしていました。
あれから26年経って、今ほとんどの現場で
声優さんが“役者さん”と呼ばれています。
これは恐らく、三間さんの影響なのだと思います。
現在三間さんは、音響監督として大御所になっているらしく
若い声優さんたちは「いつか三間さんと仕事が出来るように頑張る」と
そう言っているそうです。(今やってるプロジェクトの音響監督Nさんから聞きました。)
すごい人って、若い頃からすごいんだなと、そう思いました。
三間さんとはその後、「北へ。ホワイトイルミネーション」でもお仕事をしたのですが、その時は、こんなことを言われました。
「僕、いっつも負けハードを買っちゃうんですよ。
ビデオもベータを買っちゃったし、レーザーディスクじゃなくてVHD買っちゃったし、ゲーム機もプレステじゃなくて、サターンを選んじゃったんです。
……このゲーム、何のハードで出るんですか?
え? ドリームキャスト? だったら僕、絶対買います!」
……いや、その話の流れで、購入宣言をしてほしくはなかったです。
ドリームキャストが負けハードになってしまったのは
実は、三間さんのせいなのかもしれません。
PCエンジンCDロムの仕事が立ち上がった頃
ボイス関係は、すべて青二プロダクションさんにお任せしていました。
キャスティングをする際も、一応メインのキャストはボイスサンプルを聞きながら(当時はカセットテープでした)、声優に詳しいスタッフが決めていたのですが、サブキャラに関しては、当時、担当だった青二の古市さんに手配してもらいました。
こちらで指定する場合、青二に所属している声優さんなら安く呼べたのですが、それ以外の事務所の方を呼ぶと割増料金になるというシステムでした。
そして、古市さんにお任せすると、当然ですが100%青二の方がキャスティングされます。
銀河万丈さんや、皆口裕子さん、郷里大輔さんなど
ハドソンのCDロム作品に、青二の声優さんが多いのはそんな理由があるのです。
ただ、青二プロダクションは所属している声優さんが多いため
あまり重要ではないお爺さん役をお任せでキャスティングしてもらっても
永井一郎さん(磯野波平役など)や、宮内幸平さん(亀仙人役など)が来て
焦ったりしました。
古市さんは、音響監督(当時は、そんな言葉ありませんでした)の仕事も
してくださったため、ほんと全部古市さんにお任せって感じでした。
その当時使っていたスタジオが、大久保のタバックでした。
タバックは、ビルの老朽化や耐震上の問題から2015年9月に閉鎖されました。
当時は「さよならタバック」と、あちこちで閉鎖を惜しむ声が上がりましたが、その二年後、スタジオ・ユモとして復活しました。
ちょうど今やっているプロジェクトでボイス収録をしていて、このスタジオ・ユモを使っています。
「耐震上の問題って、解決したんですか?」と音響監督さんに聞いたところ「実は問題なかったらしいですよ」と言われました。
……「さよならタバック」とは何だったんだ?
と思いながらも、30年前に通ったスタジオでまたお仕事ができるのは
とても感慨深いです。
青二プロダクションの話を続けます。
ハドソンが青二さんにボイス関係をお任せしていたのは
1993年に発売されたイース4あたりまでだと思います。
なぜ覚えているかというと、以下のような話があったからです。
イース1・2、イース3、英雄伝説1、英雄伝説2と
ナレーションはずっと銀河万丈さんにお願いしていたのですが
他社ゲームのナレーションも銀河さんが担当することが多くなり
一部で「ミスターCDロム」と呼ばれたりしていたので
「そろそろ別の人にしませんか?」と若手スタッフに言われました。
そこで別の方をリストアップして、念のため第二志望の方もお伝えしたところ、古市さんから電話がかかってきました。
(当時はまだ、メールが一般的ではなかったため
仕事は電話かFAXで行っていたのです)
古市さん「ナレーション候補の声優さんのスケジュールが合わないようです」
長山「第二志望の方はどうですか?」
古市さん「その方もご都合が悪いそうで……」
長山「では誰が空いてますか?」
古市さん「銀河なら……空いてますが……いかがですか?」
ということで、なんだかすごい大人の事情を感じながらも
また銀河万丈さんにお願いすることになりました。
もちろん、結果的に素晴らしいナレーションをしていただいたので
そこに関しては全く問題ないというか、むしろ感謝しているのですが
あのとき、本当に第一志望、第二志望の方のスケジュールがNGだったのか
ちょっと疑わしいと思っているのです。
そう言えば以前、ぷろだくしょんバオバブの声優さんを
(確か石丸博也さん)キャスティング希望したところ
「バオバブは価格が高いのでお勧めしません」と
古市さんに言われた記憶があるのですが、ウィキペディアを見ると
1976年夏に18名のメンバーが離反して、青二プロは分裂。
富田耕生を中心とした脱退組はぷろだくしょんバオバブを設立した。
以降、青二プロがキャスティングする番組には長くバオバブ所属声優が
出演することはなかった。
と書いてあったので、実はこれも大人の事情だったのかもしれません。
(あれ以来ずっと、“バオバブは高い”とすり込まれていたのですが
事務所によって値段が変わるってこと自体、なんだか疑わしいです)
ちなみに古市さんは2007年、青二プロダクションの社長になり
現在は、相談役をされているそうです。
……と、こう書くと古市さんの悪口を書いているように思われて
しまうかもしれないので弁解しますが、違うんです。
当時まだ将来性も見えていなかった“ゲームの声の仕事”に
積極的に協力していただいたことを感謝しているのです。
その後、青二さんは、まだスマホがあまり普及する前の2011年に
「美声時計/bisei-tokei」という声優さんが写真と声で時間を教えてくれる
アプリに全面協力していたりするので(パズドラがリリースされる前です)
そういう進取の精神を持っている会社なのかもしれません。
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