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【母の遺作】おっかしなきこ

~てのひらら No1 みずほどうわしゅう~

【はじめに】

昨年から出したい出したいと思っていた小さな童話集「てのひらら」をやっと作ろうと決心しました。

その第一の理由は、今年こそなまけぐせを少しは直したいと思ったこと

第二は、私の子どもと、お話し会に来てくれる子ども達に、少しでも、私の作った「おはなし」を読んでもらいたいと思ったこと

第三は、多くの人に作品の批評をしてもらいたいと思ったこと  です。

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シリーズ・さくらようちえんの子どもたちより「おっかしなきこ」

ゆうこちゃんは、ようちえんにはいった日、はずかしがって、ママのうしろにかくれてたの。すると、けんすけくんがジャングルジムの上から、大きなこえでいったの。

「わあ、ママのうしろにかくれてらあい。あまえんぼうの赤ちゃん!」

ゆうこちゃん、なみだがポロンとこぼれちゃった。

けんすけくんは、ジャングルジムからおりてくると

「わあ、なきむし、なきむし、なあきむし」

って大きなこえでいったの。

ゆうこちゃん、とうとう、なみだがとまらなくなっちゃった。

そうしたら、けんすけくんてば「なきこ」って、あだなをつけたの。

でも「なきこ」でとくすることもあるんだよ。

おやつのビスケット、われてるのがきたとき、ゆうこちゃんが「わあーん」ってないたら、あきこちゃんがさっとかえてくれたの。

えんそくのときだって、せんとう。「ゆうこちゃんは、なくといけないから・・・」だってさ。

カンナせんせいのて、しろくてやわらかいんだ。ゆうこちゃんがぎゅうっとにぎって、さっさとあるいたもんだから、みんなうらやましそうだった。

でもねえ、このあいだ、まりこちゃんがこしてきてから、かわってしまった。

まりこちゃんは、びょうきなんだって。せきがでると、むねがいたくなるんだって。

だから、カンナせんせいも、まりこちゃんにすごくやさしい。

わんぱくたいしょうのけんすけくんも、マサルちゃんも、まりこちゃんにはいじわるしない。

なのに、まりこちゃんはよくなく。

マラソンするときも

「わたし はしれなあい。むねがいたくなるから だめえ」

ってぽろぽろなみだをこぼす。

「おべんとうがのこっちゃったあー」

って、また なく。

そうしたら、せんせいも みんなも

「いいよ いいよ」

って やさしいこえでいう。

ゆうこちゃんは だんだん おもしろくなくなっちゃったの。


六がつ。

にわのあじさいに 雨がきれめなくふってきて 外にでられなかった日。

「きょうは グループで すきなえをかくことにしましょう」

といいながら、せんせいがまっしろい大きなかみをくれた。

(うさこちゃん かこうかなあ)

(おはなもいいなあ)

ゆうこちゃんは いろいろかんがえて わくわくしていた。

すると、

「はい ゆうこちゃん なかよくしてね」

って、せんせいがまりこちゃんをつれてきた。

(いやだなあ)

っておもったけど、せんせいにたのまれたんではしかたない。

ほんのすこおし、ひだりによってやった。

まりこちゃんは はだいろのえのぐで、だまあって まるをかきはじめた。つぎにながあーいまると、ぼうみたいなのを二本。

ゆうこちゃんは やっぱり うさこちゃんをかくことにした。

ながみみうさぎのながあーいみみ。

白い、ふさふさのからだ。

はねている足。

ふわふわのしっぽ。

その時、

「いやあーーー」

きゅうに まりこちゃんが なきだした。

「わたしのえ けしちゃった。パパのかお、つぶれてる」

あわててよくみると、ほんとうに うさぎのしっぽで まりこちゃんのえがつぶれてる。

まりこちゃんがわあわあなくので、みんなびっくりして あつまってきた。

「どうしたの。」

「どうしたのよ。」

みんながきくから、まりこちゃんは よけい大きなこえでなく。

ゆうこちゃんも

「うわあーーん わあーーあーーん あああーん」

って、ありったけのこえでないちゃった。

ゆうこちゃんは なきながら かんがえていた。

(なかなくっちゃそんだもん)

(けんすけくんたちも せんせいも まりこちゃんどうしたのって やさしくいうにきまってるもん)

ゆうこちゃんがないたので、まりこちゃんはびっくりして ゆうこちゃんをみた。

そして、もっと大きなこえでなきだした。

ゆうこちゃんも ほんとにかなしくなって おんおんないた。

まりこちゃんも からだをふるわせて えーん えーん ないた。

ゆうこちゃんのくちは しょっぱくなって ぬるぬるしてきた。

(きもちわるーい)

とおもいながら、ゆうこちゃんはまりこちゃんをみると まりこちゃんのかおもビショビショだった。目もまっか。

(ああ おっかしなかお)

ゆうこちゃんは おもわず ニヤッとした。

まりこちゃんもニヤリとわらった。

「おっかし おかし おかしなかおだ」

「おっかしなきこ、なきこが二人」

けんすけくんが きゅうにはやしたてた。

そして、手をたたきながら、二人のまわりを まわりはじめた。

そのあとから、やっちゃんや マサルくん なかよしのあきこちゃんも。

あっ せんせいまで まわってるの。

ゆうこちゃんは あわてて まりこちゃんのかおをのぞきこんだ。まりこちゃんは はずかしそうにわらった。

「おっかし おかし おかしなかおだ」

「おっかしなきこ、なきこが二人」

けんすけくんたちは はやしながら にわにでていった。

外の雨は いつのまにかあがっていて すべり台の雨つぶが キラキラと光っていた。

ゆうこちゃんも まりこちゃんをさそって、

「おっかし おかし おかしなかおだ」

「おっかしなきこ。なきこが二人」

と こえをあわせながら おひさまがぴかぴか光っているにわへ おりていった。

その日から ゆうこちゃんとまりこちゃんは だいだいだーいのなかよしになったんだよ。二人のなきむしもすこしずつなおってきたみたい。

(おわり)   1979年1月

☆☆☆☆☆☆

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母の自作の童話集「てのひらら」第1号の作品。表紙の絵も自分で描いて、コピーしてホッチキスで止めた、ちいさな作品集です。くも膜下出血で倒れたのが1977年の5月なので、それから2年弱で始めたことになります。

#母の遺作 #童話#てのひらら


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