【母の遺作】みどりの子ゾウがやってきた

ユキちゃんはかぜをひいて、ようちえんをやすみました。

でも、おとなしくねていたので、おひるごろには、だいぶん、ねつもさがりました。

ユキちゃんが、おひるに、だいすきなホットケーキをたべていると、

「ピッポーン」

だれかきました。

おかあさんがでてみると、なかよしのともこちゃんです。

「はい、これ。せんせいから」

ともこちゃんは、あかいサンタのくつしたをわたしてくれました。

くつしたのなかには、おかしと、ちいさなゾウが、はいっていました。

みどりのおりがみでできた、ちいさな、ちいさなゾウです。

このゾウのおなかには、てがみがついていたので、おかあさんがよんでくれました。

「ユキちゃん、つまんなかったね。きょうは、クリスマスかいだったのに。でも、そのかわり、くつしたのなかに、プレゼントをいれました。おかしと、せんせいがつくった、みどりの子ゾウです。 はやくよくなってね。       せんせい」 

「わあー、せんせいからだあー」

ユキちゃん、パチパチ、てをたたいて、よろこびました。

のこりのホットケーキをたべながら、ユキちゃんは、みどりの子ゾウを、しげしげとみつめました。

こいみどりいろの、おりがみでできた、からだ。

おれまがっている、はな。

マジックでかかれた、ほそい め。

ちいさな、きば。

ユキちゃんは、このみどりの子ゾウが、とてもきにいりました。

それで、てのひらにのせて、まくらもとまでつれていきました。

「いっしょにあそぼうね」

ユキちゃんがいってると、

「だめよ。ねてなくちゃあ」

おかあさんがやってきました。

「もうすこしがまんしてると、なおるからね。ねてなさいよ」

おかあさんは、ふとんをかけなおすと、かいものにでかけました。

ユキちゃんは、はやくなおって、ようちえんにいきたいとおもって、がまんしてねていました。


どれくらいたったでしょうか。

ユキちゃんのまくらもとで、なにかが、ガサガサッとうごきました。

とびおきてみると、それは、みどりの子ゾウでした。

子ゾウは、あかいサンタのくつしたを、はなにひっかけて、ふりまわそうとしていました。

でも、くつしたがおおきすぎて、できません。

「あれあれ、よしよし……」

ユキちゃんは、ひとさしゆびで、子ゾウのあたまを、そっとなでながら、

「レ ア ナ ク キ オ オ !!」

って、いってやりました。


このおまじないのいみ、わかる?

よく、おかあさんがしてくれるんです。

きらいなにんじんが、たべられないとき。

なわとびが、できなかったとき。

すると、ふしぎ。げんきがでてきて、なんでもできちゃう。

おかあさんからきいたので、せんせいも、ときどきしてくれます。

ユキちゃんに、すっごくよくきく、おまじない。

おねがいしたいことを、さかさまにいうの。


ユキちゃんは、もういちど、おおきなこえでいいました。

「レ ア ナ ク キ オ オ !!」

すると、子ゾウは、どんどん、どんどん、おおきくなりました。

そして、へやのなかを、ドシドシ、ドシドシ、あるきはじめました。

「わあー、すてき!!」

ユキちゃんは、あかちゃんゾウくらいのおおきさになった、子ゾウのせなかに、はいあがりました。

子ゾウは、とっても、いたずらがすきみたい。

ユキちゃんをのせたまま、はなをニューッとのばすと、サンタのくつしたのなかから、おかしをひっぱりだしました。

「だめよ。だめ!!」

でも、子ゾウは、ムシャムシャたべてしまいました。

「まだまだはらぺこ、ぺこぺこだ」

子ゾウは、こんどは、れいぞうこをあけました。

そして、ハム、チーズ、キャベツを、ムシャムシャ、バリバリ、たべました。


子ゾウがつぎにあけたのは、ようふくダンス。

「ふかふかのまっしろ、だあいすき!!」

子ゾウは、ユキちゃんのだいすきなセーターをひっぱりだし、あたまをつっこもうとします。

「だめ、だめ、のびちゃう!!」

ユキちゃんは、おおあわて。子ゾウのせなかからすべりおりて、とめました。

すると、こんどは、おとうさんのおおきなコート。

「だめ、だめ、それでもやぶけちゃう!!」

あれあれ、子ゾウは、もう、おかあさんのふじいろのショールを、ひっぱりだしています。

「だめ、だめ、しかられちゃう!!」

でも、子ゾウはきにいって、とうとう、くびまきにしてしまいました。


つぎに、子ゾウは、ドシドシと、おねえちゃんのへやに、はいっていきました。

「フム、フム…………」

子ゾウは、ほんをよみはじめました。

でも、まるで、でたらめ。

ひょうしのえが、さかさまです。

「あはっ」

ユキちゃんは、おかしくなりました。


しばらくよんでから、子ゾウは、おとうさんのへやに、はいっていきました。

ラジオのスイッチを、かってにいれると、

  バババババーーーーーー

  ビビビビビーーーーーー

そのうち、

  ロットロ ロット

  ロットロ ロット

たいこをたたくおと、きこえてきました。

子ゾウはそれをきくと、おどりはじめました。

  まえあし ドッシン シン

  うしろあし ドッスン スン

  ながいおはなも フラーン フラーン

みていると、ユキちゃんも、ひとりでにうごいてきました。

「あっは、おもしろーい。」

ユキちゃんも、かたあしあげて、よこっとび。

  トットットー

  トットト トー

それをみて、子ゾウも、よこっとび。

  ズッダン ダン

  ドッダン ダン

ユキちゃんは、こんどは、かたあしあげて、クルリ、クルリ。

  ロンタッター

  リンタッター

  ルンタッター

二人とも、もう、むちゅう。

けいこうとうが、ユラユラしても、つくえがガタガタしても、しらんかお。


どれくらい、おどりつづけたでしょう。

「ああ、のどがかわいた」

ユキちゃんが、みずをのもうと、おどりをやめたときです。

ガチャガチャ、げんかんで、おとがしました。

「あっ、おかあさんだ!!」

ユキちゃんは、あわてました。

「しかられちゃう!!」

「ちいさくなって!!」

すると、みどりの子ゾウは、キョトンとしました。それから、クシュンとなって、かなしそうにユキちゃんをみました。

でも、ユキちゃんは、おおあわて。

「レアナ、クサイチ!!」

すると、みどりの子ゾウは、シュルシュルシュルルとちいさくなりました。


ユキちゃんは、ちいさくなった子ゾウをだきしめて、おふとんにもぐりこみました。

そして、そっと、めをつぶりました。

おかあさんが、フスマをあけています。でも、ユキちゃんは、めをつむったまま、じっとしていました。

ゆうがた。

ユキちゃんのねつは、すっかり、さがっていました。

もちろん、つぎのひ、ユキちゃんは、おおよろこびで、ようちえんにいきました。




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