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『宮田裕章さんと語る!母親からはじまるBetter Co-being』イベントレポート

 1週間にわたり開催されたHUC2周年祭。その最終日、メンバーたちの興奮が最高潮に達したイベントが、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章先生をお迎えしてのオンラインセッションです。

 宮田先生は、LINEを活用した新型コロナの全国調査を指揮したことでも知られ、データサイエンスを使った社会変革を目指し、さまざまな領域で活躍していらっしゃいます。

 宮田先生が掲げる”「一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”(Better Co-being)」というビジョンは、100人100通りのWell-beingを実現しようとするHUCと共感する点が多く、HUC内ではファンクラブのスレッドが日々盛り上がっているほど大人気の存在です。

 当日先生をお迎えして、どんなテーマで議論するのか、入念に打ち合わせを重ねて臨みました。本記事では、「宮田裕章さんと語る!母親からはじまるBetter Co-being」と題したこのイベントの熱気あふれる様子を、note上で再現します。

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【議題1 働く母親を取り巻く無意識の偏見について】

■ふーみん(HUC)
 今、日本の働く母親は、ごく普通に働くためだけに限界に近い努力を強いられています。単純な家事育児分担の問題にとどまらず、職場の人たちの理解やサポートを得るための関係構築といった本業とは関係ないことで時間を取られてしまう。

 本当は、もっとマクロなレベルで努力していきたいのに、普通に働くための努力で疲弊してしまうのです。日本では女性はマイノリティとしては最大派閥であり、ここから突破口を見つけていくのが宮田先生のおっしゃる最大多様最大幸福につながるのではないかと思っています。宮田先生は、どのようなアプローチを考えますか。

■宮田先生
 まず皆さんにお伝えしたいのは、社会の様々な困難のしわ寄せが母親の皆さんに振りかかる理不尽な仕組みを私もなんとかしたいと考えていること。こうした理不尽に、個人が孤立して向き合い、苦しみ続けることはあってはならないことです。育児の難しさ、仕事との両立を妨げる負担は、社会の仕組みで解決しなければなりません。

 女性の問題の中で象徴的なのはシングルマザーの貧困率で、先進国で日本はワーストです。日本は「普通」や「平均値」に収まることを求める傾向が強く、シングルマザーは「両親で子育てをする」という平均から零れ落ちた瞬間に社会は手のひらを返したように冷たくなります。

 加えて、離婚のうえに、非正規雇用や持病といった要素が重なると、シングルマザーの苦しみは足し算ではなく掛け算で増幅します。残念ながら現在の福祉は足し算でしか設計されておらず、相当追い詰められてからでないと支援が受けられません。

 昨年から河野太郎行革担当大臣とともに新しい支援を枠組みを考えているところなのですが、たとえば本来成長しているべき子どもの体重が減ったとか、急に成績が落ちた段階で発見し、すくい上げてサポートできないか、といったアイデアをもとに、貧困に陥る手前でできる支援のたたき台を作っています。

 私は目下のところは限界的な人たちへ向けたアプローチに取り組んでいますが、そうでない母親の皆さんも一人ひとりが輝くことが重要です。共通を探すのではなく一人ひとりに大切なものを共有することで、未来への一歩が見えてくるはずです。

 ただ、外部から想像して寄り添うことには限界もあるので、どんな課題があって何が必要なのかをHUCの皆さんの中でも探し、発見し、声をあげて提示していただきたい。日本が最も解決できていない女性の問題に向き合わずして、社会変革はできないと考えています。

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【議題2 多様な価値観を受け入れる社会に変えていくにはどうしたらいいか】

■しほりん(HUC)
 宮田先生は普段から理念と実践と両方が重要とおっしゃっています。最大多様の最大幸福を実現するために、私たちにできることは何だと思われますか。

■宮田先生
 こういった議論の場がまさに理念であり、実践はすでにできているのではないでしょうか。重要なのは単に平均に合わせるのではなく、多様なものを多様として扱うことです。

 たとえば、HUCにはたくさんの部活がありますね。個人的にはネトフリ部の皆さんがどんなコンテンツにハマっているのか興味がありますが、それぞれが多様な楽しみを見つけてつながっていることは素晴らしいと思います。

 母親に限ったことではありませんが、日々の忙しさに追われていると見える世界が固定化して、それが苦しみを増幅させることがあります。多様性の中に身を置いて視点を広げ、楽しみを発見すると、それは自分だけでなくほかの人にとっても豊かな体験につながっていきます。この実践は、非常に価値がある取り組みだと思います。

 HUCは、まだいろいろと試しているフェーズなのだと思います。次の発展に向かううえでは、このつながりをどうデザインしていくか、コミュニティをどう豊かにしていくかが重要になるでしょう。私も多くの街づくりプロジェクトにかかわっていますが、コミュニティづくりというのは言葉でいうほど簡単ではありません。

 今後はHUCでも、コミュニティの中だけでは解決できない問題も出てくるでしょう。そんな時に母親ではない外部の人たちや別のコミュニティとのつながりをどう仕掛けていくか。HUCは大きなポテンシャルを持っており、その発展に期待します。

【議題3 子供に関するデータ活用について】

■あすかち(HUC)
 宮田先生は子どもに関するデータ活用について、親にはどんな心構えが必要とお考えですか。私は高校教諭で、生徒の成績などの情報がデータ化されると様々な面で有益だと考えていますが、いざ自分が母親になるとわが子のデータがどのように使われるのか、どのような形でアクセスが可能になるのかという点に不安を感じています。

■宮田先生
 情報を誰かが自由に使える状況を作るべきではないのですが、だからといって何も共有しないと子どもを支える手段も可能性も奪われてしまいます。たとえば、コロナ禍で注目された遠隔教育では、日本は先進国で最も遅れを取ってしまいました。

 原因を教育現場に押しつける言説がありましたが、それは正確ではありません。2018の段階で日本は日常的にICTを教育で使っているというランキングで、OECD37カ国中、37位だったのです。条件そのもので大きく遅れていたのです。

また教育についても、デジタルかアナログかではなく、デジタルを前提とすることで教育をどう良くしていけるか?という視点が重要です。デジタルを使うことで、一人一人の得意不得意に合わせた学習を支援していくことができるようになってきています。一方でアナログでサポートする先生たちは、生徒の一人ひとりに寄り添い可能性を引き出していくことが重要になるでしょう。これがアナログの価値であり役割です。

 どんなに良い授業でも、平均に合わせてしまえば得意な子には退屈であり、苦手な子は取り残されます。こうしたときに、その子に合った教育を見つけていく手がかりとして、データが重要になります

 重要なのはデータを使うことの是非や、誰に所有権があるかといった問題ではなく、「どう使うか」です。私が今、政府と議論しているのは、こうしたデータに個人がアクセスする権利を持ち、どんな目的で提供するかを個人が選べるしくみです。子どもたちの将来に本気で寄り添えるのは、なんといってもご両親です。子どもの未来のためにどうデータを活用していくか、チェックしながら共に考え、見守っていただきたいと思います。

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■おわりに

 一つひとつのテーマやメンバーからの質問に対し、言葉を選びながら丁寧にお話してくださる宮田先生。男性である先生から見て対極にある「母親」という存在に対しても、常に寄り添い、思いを寄せながら、社会をより良くしていこうとする姿勢が印象的でした。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下で、日本では「経済か、医療か」という問題をめぐり大きな分断が生じました。メディアがこうした分断をあおる中、宮田先生は両者が歩み寄り、手を取り合って目の前の危機に立ち向かっていくための方法論を発信し続けています。
 あるメンバーから「どうしたら先生のように、他者に寄り添い、多様な価値観を持ち続けられるようになりますか?」という声が寄せられました。この質問に対する先生の答えの中に、3年目を迎える私たちHUCが進んでいくべき方向のヒントが見えた気がします。

「より良い未来は、マジョリティに合わせるのではなく、対話によって築いていくべきです。私自身、多くのバイアスや偏見から逃れられないでいますが、それでもいろいろな人の立場からものを考える習慣を持ち続けることを大切にしています。最も重要なのは、他者が大事にしているものを、自分も大事に考えること。これができれば、対話の第一歩を踏み出すことができます」

構成/森田悦子(HUC えったん)

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スケッチノート by ささのり

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スケッチノート by しほりん

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