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フォレストガーデン「食べられる森」の運営でみえてきたレスポンシブルのあり方とライフスタイルの選択。 パーマカルチャーデザイナー大村淳さん。


Permaculture Design Lab.で共同代表を務める大村淳さんは、静岡県浜松の都市郊外でサブ・アーバンパーマカルチャーをテーマに、地域コミュニティと関わりながら、自然生態系・人間生態系の双方が豊かになる暮らしを実践しています。
すべての生き物たちと作る「食べられる森、​フォレストガーデン​」を運営することで見えてきた大村さんが考えるレスポンシブルのあり方とは?サーキュラーエコノミーとの繋がりとは?
今回はパーマカルチャーデザイナーの大村さんにお話を伺いました。

持続可能な生活様式を作っていくパーマカルチャーデザイン


——パーマカルチャーという言葉に聞き慣れない方もいるかと思いますが、どういうものなのでしょうか。

パーマカルチャーとは1970年代にオーストラリアのビルモリソンとデビッドホルムグレンという人が再開発した、サステナブルな文化=生活様式のデザイン手法という位置づけです。環境の激変、経済成長と同時に自然生態系が破壊されていく課題に対して、どういった解決策があるのか?という問に対して自然と調和的に暮らしてきた、人々の世界各地の伝統的な生活文化を一度洗い出して生まれたものです。暮らしに必要不可欠な行動や構築物を人間だけでなく、他の生き物たちにとっても恩恵を受け得るものなのかを確認するいくつかのチェックポイントがあり、人が関わるあらゆる生活領域でそれらを実践していくことで、お互いに有益な関係性を築きながら生活様式のデザインをしていこうというものです。
扱う領域が膨大で、どうしても混乱を招きやすいものではありますが、僕たちはその中で、「フォレストガーデン」という食べられる森を作ることに注力して、そこから持続可能な生活様式を作って行くアプローチをしています。

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——なぜフォレストガーデンに注力しているのですか?

植物たちは、自然のあらゆるところで点在、繁茂しようとしていて、その中で時折雑草は刈り取られたりすることもありますよね。ただ僕たちの発想は、それが食べられるものだったり、何かの道具になったり、そういう視点で植物を捉え直していくと、実は道端にある草や植物が、自分たちの暮らしに恩恵を与えうるものになるんじゃないか?というものなんです。その中で多くの方に一番わかりやすいのは、食べられるものだと思ったんですね。たとえば庭先やベランダなど空いた空間に、食べられるものを雑草の代わりに置き換えていくと、ものすごく豊かな空間を作れるんじゃないかと思って、庭を作るというよりは家庭菜園的空間をあらゆる場所に作るというような事業をしています。

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他の生き物にとっても食べられる庭 ー共生が生み出す 再生性・循環性・持続性ー


実はそのような食べられる庭は人間が食べられるものだけではなく、昆虫が蜜を舐めにきたり、その虫を食べる鳥たちが集まってきたり、その鳥を食べる獣が来たりと、生態系の広がりが繋がっていくと、僕たち人間だけではなく、他の生き物たちにとっても食べられる森が作られていくんです。そうすることによって、「人間中心で食べ物を作る」いう世界観からさらに奥行きが生まれ、「他の生き物たちを巻き込みながら自然を復元をしていく」という、人も自然も生き物も豊かでありながら、共にそれを持続していくことができる世界観が描けると思っています。

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——大村さんがこの事業をはじめたきっかけが気になります。

23歳の時にバックパックでユーラシア横断の旅をしたのですが、その土地土地で、何百年何千年も、おそらくライフスタイルを変えることなく暮らしていた先住民と呼ばれる人たちのところを渡り歩きました。1日数ドル以下の暮らしとよく表現されるんですが、僕が出会った人々からはその貧しさを感じなくて、色々と課題はあると思うのですが、羨ましいくらいの余裕とゆとりと、内面の豊かさが溢れているなと感じたんです。彼らのような暮らしが日本でできたらよいなと思ったのがきっかけです。

——日本も昔は彼らのような暮らしをしていたのかもしれないですね。パーマカルチャーにもそこでつながったのですか?

きっと、彼らと同じような暮らしを日本人もしていたと思います。身近に森や里山、自然に溢れるような畑や田んぼの中で暮らしを淡々と行いながらも、人との繋がりの中で様々な問題を解決していったのだろうと見えてきました。 
ただ、現状からかつての調和的な里山ライフへと強引に引き戻すことには限界があるので、自分たちの暮らしのベクトルを過去とともに未来にも向けつつ、それをアップデートしていくような文化やライフスタイルを作りたいなと思ったんです。それでパーマカルチャーに可能性があるのではと思いました。それを自分の生まれ育った場所でやりたいと思ったんです。旅で出会った人たちは、金銭的資本は少なかったと思いますが、今思えば、その他の資本は物凄く豊かだったんです。お金の資本を使う代わりに他の資本を使うことで、彼らの暮らしはニーズを様々なやり方で満たし、彼らなりの豊かさを保っていたんだなと思います。さらにその行為自体が、生態系と持続可能性への配慮もなされていたというところが、僕のインスピレーションのきっかけですね。

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——環境問題に配慮してというより、暮らしの一部として豊かさを保っていたのですか?

おそらくそれが彼らにとって自然だったんですよね。たとえば水を汚すことや植物を採りすぎることが禁止されている、そんな感じではなく、配慮されていることが当たり前。という文化でした。 僕がフォレストガーデンに心惹かれる理由に繋がるのですが、僕たちが関係する植物や虫、生き物たちがパズルのように結び合っていくと、豊かさをジワジワ生み出していってくれる状態ができていくのです。それが一番自分たちにとって様々な恩恵を与えてくれる。それを深く実感するからこそ、それを保とうとする。 逆に裏を返すと、何かに特化してこれだけを育てると、それ以外は手に入らなくなる、という恩恵の多様性が失われていくところもまた面白いなと思ったりもしています。

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自然からのフィードバックから生まれるバランス感覚

自然が勝手にフィードバックをくれるんです。枯れたり、病気になったり、特定の虫だけが大量発生したり。システムがうまく機能していないから、自然に問題が浮上してくるということがあるんです。フィードバックを受けてやることは、虫を殺すことよりも、ひょっとすると花を植えることかもしれないし、その虫があまり好まないような植物を育てたり、虫のための食べ物を育てたりということなのかもしれないんですよね。その均衡の崩れというのは、常に色々なフィードバックとして自分たちに降り注いでくるので、物事の関係性やその奥行きを見るような姿勢で、直線的というよりは、ぐるりと巡るように課題にアプローチするような対応をしています。


フォレストガーデンとサーキュラーエコノミー

例えばサーキュラーエコノミーを、僕はキャピタルという感覚よりもリソース、資源という観点で見ているのですが、たとえばテントウムシは、アブラムシを食べてくれる資源にもなるし、害虫を抑えてくれるだけじゃなくて、子どもの好奇心とか探求心とか、楽しい、ワクワクするニーズを満たしてくれる物質的でない資源にもなるんじゃないかと。
しかも、それが年々豊富になっていく。 そんな動物や植物が持っている見える資源と見えない資源を最大限に発揮できる空間が、僕は森という生態系システムなんじゃないかと思っています。それをうまく人々の暮らしのニーズを満たせるようにデザイン、設計していくというのが僕たちがやっていることになります。
その森のデザインはそこに住まう人のニーズによって大きく変わっていきます。たとえば薬草や、健康志向の人がいるとしたら、薬草とか栄養価が高いような植物でお庭を作ることもあるし、お花が好きな人たちがいたら、食べられるものだけじゃなくてお花も入れていきます。
人々のニーズを植物や生き物たちで満たされるような工夫をしていくと、人々と自然と生き物が共に満たせる場づくりができるんじゃないかと思っているんです。

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課題と自分とのつながりを見つける


——ここからレスポンシブルについて聞きたいのですが、大村さんにとってのレスポンシブルであることって何でしょうか。

直接関わりがないように見えても、自分とその課題は繋がっているという意識を持った上で、どういう選択をすればより関わり合うことができるのか、という姿勢をもつことがレスポンシブルであることなのかなと思っています。
もちろん関連性が近い遠いはありますが、完全に0はありえないかなと。何か自分の行動を変えていくという、ひとつの気づきというか。リマインドされる感じなのかなとか、そういった意味で僕はこの言葉を捉えていますね。

——「関わり合う、意識する」といったときに、どのくらいの範囲を見られているのでしょうか?


パーマカルチャーのゾーニングという考え方があるのですが、たとえばレスポンシブルといっても、それぞれのゾーンによってレスポンシブルの質が変わっていくんじゃないかと僕は思っています。
人間の活動領域を考えた時にどこに何を植えるべきか、かかる人間の労力、使うリソースが変わる、というひとつひとつの関係性の物差しとしてゾーニングを使います。
この図の1は毎日、2は週に数回、3は月に数回、4は年に数回。5はほぼ関わらないという考え方で、たとえば家の近くに一生使わないかもしれない人工林のスギとかヒノキを植えるよりは、毎日使うかもしれない野菜やハーブを植えたほうがニーズを満たすことができます。
自分ひとりでできるもの、人と協力しないとできないもの、そういったところのレスポンシブルや反応が結構変わってくる気がしているんです。自分と繋げるとしたら、どういう活動や行動を生みだしたら良い関係性になれるのかなと、パーマカルチャーからアプローチしていたったりするんですよね。

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(画像提供:大村淳
出典元:https://northernhomestead.com/permaculture-zones/)


——自分が生きている間に達成できるかというと難しくても、気づいたら自分は過去の側にいて、未来に紐解いてくれるような人がいるかもしれないですよね。

色々な人の想いや形あるもの、ないものみたいなのが僕は文化なのかなと思っていて。名もなき人たちがいろいろな物を作ってきていると思うんですよね。みなさんの今手掛けているものも文化の何かしらの一部になって、きっと受け継がれていくものになっていくんじゃないかなと思っています。
時折、僕は木を植えたりするので、僕が死んだあとも生きているという感覚から、個人的に時間を捉える幅が強制的に変わってしまいました。自然に触れてみると、長い視野で自分たちの事業とかを考えられるので、面白い観点ができてくるんじゃないかなと思います。自然と関わってみるってインスピレーション豊富だから、ガーデニングなどもお勧めしたいですね。育てなくてもそういう空間に行くというのもありだと思います。

——ありがとうございます。大村さんは最近オンラインコースもはじめていますよね?

はい、みなさんのご自宅のお庭にオンラインで入っていくようなセッションができたらよいなと思っています。グループセッションで三ヶ月、平日の夜に、皆さん自身がパーマカルチャーのデザイナーになってもらって、暮らしの設計図を描くコースを企画中です。土地が無い人向けのパーマカルチャーもあるので、アパートの中でどうやって生物多様性を最大化するかだったり、身近なサーキュラーに特化したパーマカルチャーライフができればと思っています。

——生活の中に自然をとりいれることで、インスピレーションを得ることができそうですね。本日はありがとうございました。

「人間中心で食べ物を作る」という世界観から「他の生き物たちを巻き込みながら、生物多様性、環境復元をしていく」という世界観を目指している大村さん。 自分と課題とのつながりを意識したり関わり合うという姿勢を持つことがレスポンシブルであることという考えを聞くことができました。

大村さんの事業の詳細はこちらです。ぜひご覧ください。

合同会社Permaculture DesignLab.
https://www.permaculturedesignlab.com/​​


すべてのいきものたちの食べられる森づくり フォレストガーデン プロジェクト
https://www.theartofforestgarden.com/


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