絶望の国の幸福な若者たち

絶望の国の幸福な若者たち #気ままに読書感想文



本の最後、補章の佐藤健さんとの対談がこの本で語られた「若者」
とりわけ、「佐藤健」という一人の若者としてのリアルなインタビューだった。

つかめているようで、つかめていない。
そんな漠然とした印象が、この章で一気に明瞭になった。

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「古市憲寿さんってテレビで見かけるけど、どんな人なんだろう?そういえばよく知らないな。」
友人のシェアハウスの本棚でなんとなく手に取った本。

本はまさに出逢いだ。

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「一泊二日で友達と千葉にバーベキューに行くのが幸せ」

佐藤さんが俳優としての模範回答ではなく、22歳の若者として話していることが自然体で、なんだか読んでいて嬉しくなった。こんな有名な俳優さんでも自然に話すんだ。


補章 佐藤健(22歳、埼玉県)との対談

>佐藤さん
「俺には芝居なんかできない」って思ってた頃の気持ちを忘れてました。だから、慣れなんだなって。なんでも徐々に徐々に慣れていくんだなって。

すごくシンプルで当たり前の話かもしれないけど、意外と忘れてた。
いまはSNSでもなんでも「できあがった状態」で私たちは目にする。そこまでの苦労や工程は見る機会が少なくて、なんとなく佐藤さんのようなすごい俳優だったら最初からできたんだろうな〜って勝手に思っていた。

>佐藤さん
友達が卒業旅行で二週間くらい海外旅行にいくというので、「お前すげえな。そんな金どこにあんだよ」と聞いたら「就職したら定年までこんなんことできないから頑張った」っていうんですよね。企業で働くと、定年の60歳くらいになるまで、長いスパンの休みが取れない。そいうことかと驚きました。

自分が普通だと思った価値観に驚く人の話を聞くのはおもしろい。
まだ社会人経験は数年だけど、いつの間にか「会社員」としての価値観をすり込まれてたと気づく。
働き方はいくらでもあるのに、いつの間に「会社員としての私」になっていたんだろう。


>古市さん
そこまでお金をかけなくても、そこそこ楽しそうな生活を送れちゃうのが現代の幸福であり、不幸であるというのが、この本の一つのテーマでした。

「絶望の国の幸福な若者たち」
不思議なタイトルだ。
真っ黒な国の中に、幸せそうな淡い色の若者たちがいる。ちょうどスポットライトが当たっている部分だけ輝く舞台みたいに。
私はいま27歳だけど、同世代で圧倒的な貧困も裕福もみたことがない。みんなスマホを持って、スタバに行って、自分の趣味を楽しむ。
そんな若者のひとりとして、私はこの時代を生きている。

>古市さん
感受性が高いと生きづらくないですか。たとえば、孤独だってことに気づかないくらい鈍ければ、ずっと幸せかもしれない。だけど孤独だと気づいた瞬間に、世界はガラッと姿を変えてしまうかもしれない。

”気づいている人”と”気づいていない人”がこの世の中にいるんじゃないかなと思う。
感覚的なことだし、うまくは説明できない。そしてきっと一つの境界線で示されているわけでもない。複雑に絡まりながら、たまにその糸口をチラつかせながらその世界は私たちのすぐそばにある。

だからきっと”気づいている人”に少しだけ近い私は、何かに追われるように生き急いでしまうのだ。


>古市さん
何かあった時に、準備していた人と、準備してこなかった人で差が出るかもしれない。と言っても、それは明日からの話ではない。だから危機感もない。

感受性が強い私は、毎日ただぬるま湯に浸かっていて、いつか頑張らないといけない時に頑張れないんじゃないかと不安になる。

何か大きな本番を準備不足なまま迎えてしまうように。

でもだからと言って、毎日「何かあった時」のために走り続けるのがすごくしんどい。
毎日、自分のギリギリの頑張るラインをどこにわたしたちは持つんだろう。
いつ来るかわからないギリギリのライン、それはどこに来るんだろう


あとがき

そのどれが欠けても、「僕」はここにいなかったと思う。
ここにいなかったかも知れない「自分」のことを思う。無数の反実仮想をくり返したところで、ここにいない「自分」が何をしているのか知る由もないが、ちょっとした違いで人生を変えた「自分」にはシンパシーを感じる。

高校、大学、休学、ワーホリ、前職、現職・・・。
27歳の私にも今までの無数の出会いや分岐点があった。そのどれかを少し違う形で選んだだけで、「無数の違う自分たち」がいたかもしれない。

その「無数の違う自分たち」はいま、どこにいるんだろう。何をして、何に共感をしているのだろう。

「研究」は楽しい。どこにでもあるデータで「常識」を疑うこともできるし、数冊の本を読むだけで、今まで信じていた世界ががらっと変わってしまうこともある

私の「読書」は「研究」なのかもしれない。
幸せはなにか?どうすれば幸せと感じるのか?この欲しいものがすぐに手に入る時代に何を見出して生きていくのか?
私が本を貪るように読む理由はきっと「読書」ではなく「研究」なんだ。


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あとがきに古市さん、全部言いたいこと詰め込んだんじゃないかな?
この本は厚いし、少しややこしいところや理解できないところは飛ばしてしまったけど、引っかかる部分はたくさんあった。
本が発売された2010年、佐藤さんは22歳、古市さんは26歳。
それから9年、お二人は何を考えているんだろう。お二人の対談の機会があればぜひ参加したい。


「絶望の国の幸福な若者たち」
古市さんの言葉は、優しい言葉で締めくくられている。


夏の朝。
二日酔いが始まる前のまだ元気な朝7時。

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