Next Gen Statsで楽しむNFLデータ~Passing Stats編
ここ数年のNFLはデータの進歩が目覚ましい。Next Gen StatsやPro Football Focusなどの各データサイトが独自のスタッツを開発し、新たなフットボールの視点を提供してくれている。私自身もこれらのデータを観察し、実際に観戦した試合の印象とを関連付けることでこれまで以上に深い考察が可能になった。しかしながらこれらのデータはまだ新しく、解釈も難しいことから、日本はおろか現地でもあまり浸透しているとは言えない。そこで、このnoteでは私が日頃からよく使うNext Gen Stats、Pro Football Reference、Pro Football Focusで公開されているスタッツのうち、特に面白いと感じているものを紹介していきたい。まず、今回は選手の速度や選手間の距離など、運動学的なデータからの分析を進めているNext Gen Statsを取り上げる。
Next Gen Stats
Next Gen Statsでは2016年以降のシーズンについてPassing、Rushing、Receiving、Top Playsの項目について様々なスタッツが公開されている。ここではそれぞれの項目に対して興味深いスタッツを以下に紹介していく。
【Passing Stats】
Passing StatsはもちろんQBに関するスタッツ。パス回数、成功回数、獲得ヤード、TD、INT、Ratingなどの慣れ親しまれた指標に加えて、Next Gen Statsの強みとも言える選手間の距離などを元に計算された指標が特に面白い。
・AGG%
こちらはQBのプレイスタイルを特徴づける指標で、QBがタイトなカバレッジに投げたパスの比率である。全パスのうち、リリースする瞬間にターゲットとなるレシーバーから1ヤード以内に相手の守備選手がいたパスの割合で定義される。この数値が低いQBほどINTのリスクを抑えた安全志向が強い(言い換えればオープンになっていないレシーバーには投げない)ことを意味し、2021年のデータで言えば低い方から、
Patrick Mahomes 9.0%
Matthew Stafford 11.0%
Kyler Murray 11.3%
Jared Goff 11.4%
Josh Allen 12.1%
Mac Jones 13.3%
Tom Brady 13.3%
となっている。断トツ1位となっているMahomesはデビュー以来、毎年リーグTop 5に入っているおり、極めて安全志向の強いQBである。ここにはランクインしていないが、私が応援するパッカーズのRodgersもこのAGG%が低いシーズンが多く、レシーバーがオープンになれない試合では投げるところがなくなり、"Hold too long"などと指摘されることが多い。このタイプのQBはINTのリスクが低い反面、レシーバーが空くかどうかに左右されやすいタイプと言えるかもしれない。
・xCOMP%、+/-
こちらはQBのパスの精度を評価する指標であるが、とんでもなく画期的なので広まってほしい。QBのパスの精度を評価する際は、一般的には単純にパス成功率が用いられるが、xCOMP%は一つ一つのパスの難しさから各QBに対して、だいたいこのぐらいの成功率になるだろうと予測したものである。そして、この数字を実際のパス成功率と比べれることでパスの難易度も考慮した正確性を評価できるという考え方だ。ここで問題となるのは「パスの難しさ」をどう見積もるかであるが、これまで蓄積したデータから機械学習を用いて、パスの長さ、カバーのタイトさ(レシーバーと最寄りの守備選手の距離)、カバーの枚数、パスラッシュの迫り具合(QBと最寄り守備選手の距離)などから、見積もっているようである。これぞ他には真似できない、Next Gen Statsの真骨頂といえよう。また、この確率が高いということはそれだけ、レシーバーが空いていたり、パスプロがもっていたり、短いパス中心のオフェンスであることを意味するので、言い換えればどれだけQBに優しい環境か?という解釈もできる。そして+/-は実際の成功率との差で、それぞれのQBがパスの難易度に対して何%上回る確率でパスを成功させているか?である。それでは2021年シーズンのxCOMP%を見ると上位5人を見てみよう。
Matthew Stafford 68.6%
Patrick Mahomes 67.7%
Tom Brady 67.7%
Ben Roethlisberger 67.5%
Justin Herbert 67.1%
特に上位3人は優秀なレシーバーや強力なパスプロなどに恵まれている印象である。RoethlisbergerやHerbertはやや意外である。短いパスが中心であるためだろうか?+/-に関しては、
Kyler Murray 6.9%
Dak Prescott 5.3%
Teddy Bridgewater 4.8%
Joe Burrow 4.8%
Mac Jones 2.6%
が上位となっており、今季大検討している若手QBの名前が並んでいる。Bridgewaterだけはかなり意外だったがスタッツを見ると成功率の面では検討しているようだ。
ちなみに、全てのパスの難易度を決まる確率として計算できるということは、難易度が高かったパスのランキングももちろん存在する。Top Playsの項目にある”IMPROBABLE COMPLETIONS”では各シーズン成功したパスのうち、難しかったパス成功のランキングも見ることができる。こちらはいってみればスーパープレーランキングとして楽しむことができる。以下は2018年のThe Most Improbable Completionに輝いたRodgersのTDパスである。
With #NFLPartner #NFLGamePass, see why Aaron Rodgers’ 2nd half last Sunday was one of the top QB performances in years. This touchdown pass to Packers’ WR Geronimo Allison, on an injured knee, displays Rodgers’ unparalelled arm talent. See more at https://t.co/CKsOG5jGei pic.twitter.com/W4bCXfGbOt
— Adam Schefter (@AdamSchefter) September 15, 2018
・CAY, IAY, AYD
こちらはAir Yardに関するスタッツ(Pro Football Focusなどでも似たようなスタッツは多いので、簡単に紹介)。Air Yardはパスヤードのうち、Run After Catchを除いたヤードで文字通り空中で獲得したヤードである。CAY、IAY、AYDの違いは以下の通りで
CAY=成功したすべてのパスのAir Yard
IAY=(失敗も含めて)企画したすべてのパスのAir Yard
AYD=CAY-IAY
これで何がわかるかというと、ロングパスがいかにうまくいっているかである。企画したパスのAir Yardは長いが、成功したパスのAir Yardは短いということは成功しているパスは短いものが多いことが示唆されるので、両者の差が大きいQBほど長めのパスが上手くいっていないことを意味する。ちなみに今季この差が最も大きい(つまりロングパスが上手くいっていないとされる)QBの一人は残念ながらパッカーズのAaron Rodgers(-3.2ヤード)である。OLが揃えばここが改善されるかがスーパーボウル制覇へのカギとなりそうだ。逆に差が最も小さいのはちょうど今週末直接対決を控えるヴァイキングスのKirk Cousins(-1.2ヤード)。両QBのロングパスの効力に注目してみたい。
・TT
こちらは割とポピュラーになってきた印象だが、スナップされてからパスを投げるまでの平均時間。このスタッツが導入されたのはQBのパスのリリースの早さを可視化するためだったが、実際のところは、リリースの早さ以上に、ラッシュが来ればポケットから出たりして時間を稼ぐQBが長くなるという面もあり、本来の目的である「リリースの早さを測る指標」としてはイマイチな感が否めない。私はリリースの早さを見たい場合はPro Football Focusでプレッシャーなし時のTime to Throwを使っているので別途紹介したい。
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