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「筋肉テイキング」は運命を自ら創り出すトリテである

ゲームマーケット2022秋の開催まで、1週間を切りました。

符亀も土曜日に出展しますので、現在宣伝や準備に追われております。

ということで、今日は【土日両日シ12】で出展されるHLKT工房様の新作「筋肉マッスルテイキングの宣伝をいたします。PR案件ではなく自主的な暴走ですのでご安心ください。

筋肉マッスルテイキング」説明書冒頭部分より引用

なぜこんな忙しい時期に他サークルさんの宣伝を勝手にしているのか。それは、本作が私の名付けたメカニクス「レーンフォロー」の新たな可能性を切り拓いた作品だからです。それを見た時の私の衝撃をお伝えし、皆様にも同じ感動を味わっていただけるよう文脈を共有する。これが、私が新作を宣伝するより優先してこんなのを書いている理由です。


トリテ (トリックテイキング) と「フォロー」

筋肉マッスルテイキング」について語るためには、本作が属するジャンルである「トリックテイキング (以下「トリテ」) 」の基礎知識を先に共有する必要があるでしょう。トリテが何かご存じの方は、この部分は飛ばしていただいて構いません。むしろにわか知識を突っ込まれると怖いので飛ばしてください。

一般的なトリテでは、スートと呼ばれるマークとランクと呼ばれる数字の、2つの要素を持つカードが使われます。例えば、トランプも4つのスートと13のランクを持つカードであり、それを使ったトリテも数多く存在します。これをプレイヤーに配り、全員が1枚ずつ出して勝敗 (ランクが一番大きい人が勝つのが一般的) を決めるのを手札枚数分繰り返すというのが、基本的なトリテの流れです。

ほとんどのトリテには、「フォロー」と呼ばれるルールが存在します。これは「指定されたスートのカードを出す」ことで、「そのスートのカードを持っているならその中のどれかを出さないといけない」場合は「マストフォロー」、「持っていても出さなくていい (ただし、それ以外のスートを出すとどれだけランクが高くても負けるものがほとんど) 」場合は「メイフォロー」と呼ばれます。そして普通は、「その回 (トリック) に最初に出されたカード」のスートにフォローします。この「フォロー」を活かし、相手の出せるカードをコントロールして勝ちを重ねるのが、トリテの基本戦略です。


筋肉マッスルテイキングの「フォロー」

では、「筋肉マッスルテイキング」はどんなゲームなのでしょうか。説明書が公開されていますので、ここでは論旨に必要な部分だけかいつまんで紹介いたします。

筋肉マッスルテイキング」のランクは、1から10までの数字です。そしてスートは、4つのボディビルのポーズです。そのせいで画の圧が強く、数字が大きくなるほどキャラが近づいてくる仕様も合わさって圧がすごいです。パワー。

遊ばせていただいた時の写真。パワー。

本作では、ランクが大きい重要なカードたちをドラフト (1人ずつ順番に取っていくルール) で分け合います。そして、その際に選ばれず残ったカードが、フォローすべきカードになります。つまり、カードを出す前からどのトリックでどのスートにフォローしないといけないかが公開されています。これにより、ドラフトでどのスートを取るべきか、どのスートを残すべきか、そして勝負時はいつかが分かりやすくなっています。脳筋にも優しいぜ!


「レーンフォロー」

この「カードを出す前からどのトリックでどのスートにフォローしないといけないのかを公開する」メカニクスは、「レーンフォロー」と呼ばれるものです。

「レーンフォロー」は、私が2020年にトリテ「インヴァージョン」を制作した際に作り、名付けたメカニクスです。「発明した」と言えればよかったのですが、残念ながらその後それより前に類似したメカニクスを採用したゲームがあったことがわかり、車輪の再発明だったと発覚しました。とはいえ、名付けてメカニクス化したのは私であり、2021年の「バックハンダー」で再び採用するぐらい思い入れもあるシステムです。

こう書くと「筋肉マッスルテイキングは私の作品のパクリだ!」と糾弾するnoteに見えるかもしれませんが、そんな意図はございません。むしろ、私はレーンフォローが他の方に使ってもらうことでジャンルとして確立することを望んでおり、HLKT工房さんにも個人的に「やれるならやって」と言っておりました。そしてある日、
HLKT工房さん「あ、符亀さん。レーンフォローのトリテ作れそうです。」
符亀「マジっすかありがとうございますテストやらせてください宣伝もしますんで!!!」
みたいな会話もしております。まさかこんなイラストが乗っかるとは思わなかったけどな。

こんな事前告知もあったので、HLKT工房さんからレーンフォローのトリテが出ること自体は、嬉しいものの衝撃というほどのことではなかったのです。私が感動したのは、レーンフォローの使い方、再解釈についてです。本作のレーンフォローの使い方は、私がこのメカニクスを (再) 開発してから持ち続けてきた固定観念をぶち壊してくれるものだったのです。


「レーンフォロー」の開発意図と弱点

その固定観念の説明のために、私がレーンフォローをどういう意図で作ったのか、お話ししたいと思います。

本メカニクスの着想の発端は、ジャンプで連載されていた漫画「アクタージュです。本作は演劇がテーマで、オリジナルの脚本だけでなく「銀河鉄道の夜」や「西遊記」が演じられることもあります。これらは読者も大まかな展開を知っており、観客役のキャラに「本来こうなるはずだが…」と言わせることも (知っていて当然なので) 容易です。「本来」を読者と共有し、その上でそれを覆すからこそ、毎回のように熱い展開が描けていたのではないか。これが、私が「アクタージュ」を分析して導いた仮説です。

面白「かった」

では、ボードゲームで同じ面白さを生むにはどうすればいいか。「本来の展開」を最初に示し、しかしプレイによってはそれに抗うことができるようなシステムが作れないか。

その問いに私なりに答えたのが、「レーンフォロー」というメカニクスです。私の2作では、フォローすべきスートを示す「レーン」のカードを入れ替えることができ、「本来の展開」をひっくり返せます。いわば「最初に並んだレーンのカードという運命に対し、なんとか抗って奇跡を起こせ」というのが、レーンフォローの開発意図だったわけです。なので、レーンフォローにおけるレーンとは、与えられるものであり抗うべきものだったわけです。

ですが当然、毎回全てのプレイヤーが運命に抗えるわけではありません。具体的には、手札とレーンの相性が悪いと、何もできない (ように思える) こともあります。レーンが与えられるものであるために、それに抗えない場合はクソゲーに見えてしまうのです。


筋肉マッスルテイキングの「レーンフォロー」

筋肉マッスルテイキングは、この問題をレーンの解釈を変えることで解決しました。与えられるものではなく、自分たちで創り出すものにしたのです。

筋肉マッスルテイキングのレーンは、ドラフト時に残った1枚によって決まります。つまり、プレイヤー全員でレーンを作り出すのです。正確にはみんなで作れるのは前半のみで後半のレーンは最初から決まっているのですが、私のゲームでは全部最初から決まっていた (後から変えるしかなかった)のに比べれば、プレイヤーの介入余地は桁違いです。もし手札とレーンが噛み合っていなければ、それはそのプレイヤーの責任なのです。 このあまりにマッチョな解決法が、ボディビルというテーマを導いたのかもしれません。

「レーンは与えられるもの」と思い込んでいた私にとって、この解決策は全く想定しておらず、しかしとても合理的で驚きました。設計意図を真っ向から否定しているにもかかわらず、できたゲームはレーンフォローであり、そして面白いのです。なんだこれは。しかもすごい圧のイラスト載ってるし。こんなんテストプレイの時なかったのに。なんだこれは。

もちろん、この変更により失われたものもございます。一度決まったレーンを変更する方法がないため、ドラマチックな展開は生みにくくなりました。レーンが決まった後のトリテ部分は答え合わせ的な体験であり、上手くハマった場合は気持ちいいですが、ダメだった時は淡々と処理する形になります。このストイックさが、ボディビルというテーマを(ry

ですが、展開を読みやすい部分はそのまま全員にゲーム展開を作る権利を与えて活躍しやすくした本作は、レーンフォローの新たな可能性を切り拓いたゲームだと思います。「運命に抗えない凡人は死ね」とでも言わんばかりだった私のレーンフォローから、トリテ入門にも使える優しいメカニクスへと生まれ変わらせてくれました。心より感謝いたします。

カードも箱も、優しく微笑んでくれています。

何より面白い安定して面白い。ドラフトでマッチョが並ぶだけで面白いのにゲームもちゃんと面白い。奇跡は起こらないかもしれませんが、地道に鍛えて着実に勝利を掴むボディビルというテーマにふさわしい面白さが味わえます。


そんなHLKT工房さんの「筋肉マッスルテイキング」は、現在絶賛予約受付中です。ゲームマーケットに行かれる方は、ぜひご予約を。行けない方は、通販の開始をお待ちください。


というわけで、レーンフォローというメカニクスを「フォロー」しつつ新たな可能性を見せてくださったことへの感謝を示すため、自作の宣伝という「本来の展開」をぶち壊し、勝手に宣伝させていただいたというわけです。あ、でも一応やっとこ。私のレーンフォロー作品2つも予約受付中です。

では、これから何も知らないHLKT工房さんに公開許可をもらってきます。
もらったので公開しました。

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