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ラジオトーク

毎日ラジオを録っている。
時たま魔が差して見に行く収録のアナリティクス。身内の数を除けばほぼ始めたてのツイッター閲覧数と同等。アナリティクスと呼べるほどサンプルが集まってない。ひらがなで「しゅうけい」が正しい。意気揚々と元気に笑いを織り交ぜながら収録する自分が頭に浮かぶ。抱きしめたくなる。強く、強く。大丈夫、大丈夫。

毎夜毎夜、クラウド上にこの世界のどこに向けられたものでもない音声が放たれる。デジタル社会の膨大なデータ管理は既に社会問題になっていると聞いた。私はその元凶を生み出す工場の支配人を務めている。世間が何と言おうとこの工場は止めない。家族にも見離された孤立無援の頑固おやじは今日も寡黙に運転ボタンを押す。緑のランプが灯ったベルトコンベヤーは一定の速度で動き出す。こんな私でも従順に指示に従ってくれる機械に情がわく。

「君だけが味方だ」
無人の工場内でにちゃりとした不気味な笑みを機械に向けた。

その時。

ホイィーーーヨンホイィーーーヨンホイィーーーーヨン
轟音のサイレンが外耳を殴る。反射的に緊急停止ボタンに手を伸ばす。何事だ、と思ったときには時すでに遅し。複数回の鈍い衝撃音と共に次第にベルトは動力を失い、最後のドゥンという一音に合わせて完全に息の根を引き取った。たった今、目の前の機械は鉄の塊と化した。発動機は見事に焼けこげ、線香のような無駄にノスタルジックな白煙を焚いている。

ついに機械にも見離された。おやじは一人呆然と立ち尽くす。陽のささない工場の床は初夏とは思えないほどにひんやりと冷め切っている。生命を感じさせないこの灰色の空間で、ぽつり空気をゆらす。

「君もか」

漂う煙はまるで機械の法要を行っているようだった。

その日から、ラジオトークは開けなくなった。

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