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鬼の人間らしさ

鬼を懲らしめる番組のシミュレーションに行った.

凍てつく如月の山中.日づけ的にはもう少しで春なのに信じられない寒さ.寒冷前線がこのあたりを10本ダッシュしたのだろうか.

番組が仕込んだ鬼が至る所から現れる.僕等モルモットはこれを新鮮なリアクションで迎える.えぇ!こんなところから!?いやぁこれは分からなかった!まんまと鬼にやられる方がスタッフは喜ぶ.初めて行った午前中に気付いた.

その日のステージはいつもと違った.
僕らはボートを漕いで湖を進んでいく.すると向こうから鬼の乗ったボート.いつもはこん棒らしきものを持って攻撃してくる.しかし今回はボートに乗っている.物理的な攻撃は距離的に不可能.どうするんだ?これでいいんですよね・・?スタッフの思惑通りに動けているか不安になる.

すると突然、何か冷たいものが体に触れた.鬼を見ると手に子供用の水鉄砲.まがまがしい鬼の仮面と黄緑色のプラスチックの水鉄砲が相容れず、暫し焦点が定まらなかった.まさに鬼の形相で冷水を噴射してくる.まるでBBQで食べるのに飽きた子供がでふざけてるみたいだった.

気温は10度.冷水に濡れた衣服は容赦なく体温を奪う.しかしこの過酷な状況以上にこの現象に違和感を感じていた.
「なんか、攻撃が鬼らしくない」

鬼なら剛腕をふるってパワーで人間を圧倒するのが筋.なぜ体温を下げることに注力しているのだ.確かにこの寒さで濡れれば体力はかなり消耗する.しかし鬼はそれを心得たうえで?だとしたら鬼にしては賢過ぎないか?鬼ならもっと豪快なパワー攻撃をするイメージだ.この鬼はなんというか、もの凄く、人間ぽい.人が嫌がることがよく分かる鬼に無性に笑けてきた.

終始シミュレーション中、鬼のスタンスが気になって仕方がなかった.しかし周りの人間でそれに触れる者はいなかった.

ふと思い返し、誰よりも自分が鬼への強固なイメージを作り上げ世界観に没入していたことに気づいて恥ずかしくなった.

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