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洋次郎さんとザリガニ

洋次郎さんは小さい頃ザリガニを飼っていたらしい。
いつ見てもつぶらな瞳で口元をわしゃわしゃ動かす姿に癒される日々。

ある日、水槽を覗くとザリガニが2体いた。
分身したかのような、全く同じサイズのドッペルゲンガーがいた。
少年は雷鳴に打たれたような衝撃を受ける。

しかしすぐに理解した。
脱皮だ。
よく見ると片方は弱弱しいセピア色をしている。

洋次郎さんはなぜか当時の気持ちのまま息巻いて言う。
「ハットリでもさ、あいつ自分で脱皮してんのに、知りませんよぉ?みたいな顔してんだよ!」

ザリガニの表情って、と言いかけて留まる。

ザリガニの表情を勝手に読み取ってしまう洋次郎少年が愛おしかった。
その時の気持ちを笑いで更新して欲しくない。
彼にとってはそれが、自分の仕業なのに責任逃れしようとしてるザリガニに見えたのだ。

なんでもかんでもツッコみゃいいってもんじゃねぇんだ。


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