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【DAY 14】観ると鬱々とした気分になる映画 「マザー!」

DAY 14
a film that gave you depression.
観ると鬱々とした気分になる映画

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「マザー!」(2017)
ダーレン・アロノフスキー監督
ジェニファー・ローレンス、ハビエル・バルデム、エド・ハリス、ミシェル・ファイファー

妻(ジェニファー・ローレンス)は夫(ハビエル・バルデム)と一軒家に2人暮らし。夫は詩人だが、長いスランプに入っている。妻は、過去に火事になったらしいこの家を辛抱強くリフォームしており、今は壁の塗り直しにとりかかっている。そんなある日、中年の男性(エド・ハリス)が訪問。何やら夫と夜中まで話し込んでいる。翌日には、その妻を名乗る女性(ミシェル・ファイファー)までやってきて、なぜだか家に居座ってしまう。そして次第に2人は横柄な態度を取り始める・・。

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ダーレン・アロノフスキーの最新作「マザー!」は、2018年に東宝東和の配給で日本公開する予定だったが、おおもとのパラマウント・ピクチャーの意向により、NGとなった。理由ははっきりとは語られていないけれども、ベネチア国際映画祭で上映したときに、その内容がかなり物議を呼んでいたことが関係しているのかも。(ちなみに、このときの金獅子賞は、ギレルモ・デル・トロの「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)だった。)

先に言ってしまうと、この映画、ストーリーがまるごと聖書の物語そのものなのだ。メル・ギブソンがイエス・キリストの処刑までの12時間を描いた「パッション」(2004)でも、観賞していた女性が心臓発作で亡くなった事故があったり、キリスト教を題材にすると、どうしてもトラブルにはなりやすい。

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しかし、僕は聖書には疎いから、初見のときには全くその構造に気づかなかった。それよりもまず気になったのが、カメラのアングルがちょっと不自然だということ。ジェニファー・ローレンスの肩越しから(もしくは視点そのもの)と、真正面からの画角、これらのスイッチが延々と続くのだ。そして、このことにより、彼女が何を見ているのか、そしてそれにどんなリアクションをするのかがいちいちわかる。すると、すっかり彼女に感情移入してしまうことになる。

そして、最初の招かれざる客であるエド・ハリスミシェル・ファイファーが来たときの、「なんかちょっと嫌だな」という、些末な嫌悪感の表現の仕方が巧みで、「そうだよなあこんなことあるよなあ」と思ってしまう。この家は、妻が1人で、内装を全部作ったのだ。床から壁から、自分でじっくり考えて、貼り直して塗り直して、もうすっかり愛着があるし、他の人には介入ほしくない大切なものになっている。なのに、とつぜんやってきた彼らが、ずかずかと家の中に乗り込んできて、タバコを吸ったり勝手に二階に行ったり。そして旦那はなぜかそれにまったく文句を言ってくれなくて、でも基本的には彼を尊重したいから強く言うこともできなくて。その気持ちがじっとりと伝わる。

そんなふうに、彼女と一緒にじわじわと嫌な気分になる映画なんだろうな、ちょっとこういうの新しいかな、と思った。まあでも、キアヌ・リーヴスの「ノック・ノック」(2015)みたいなホラーに落ち着くんだろうな、と舐めていた。

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けれどそんなことでは終わらなかった。

次は、夫婦の息子だ、という兄弟が現れる。常に野卑に言い争いをし続けていて、どうもこいつらも変な奴だ。そしたらなんと、家の中で兄が弟を殺してしまう。そしてその葬儀もこの家で行うことになる。このあたりから、もう、しっちゃかめっちゃかな理不尽が止まらない。次々に参列者がやってきて、いつの間にか参列者じゃない人たちも家の中を占領しはじめて、最初の「ちょっと嫌だな」どころじゃないカオスな状態となる。

アダムとイブの子どもたちの末裔である人間たちが、いつしか我が物顔に世界を闊歩する様子を描いているということだと思うけれど、僕はこの騒々しい混沌を、「大衆によるステレオタイプな扇動」だと感じた。そしてそれは僕をずいぶんと胸糞悪い気分にさせてくれた。

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結局、全体の構造としては、そんなに飛んでるわけじゃないんだよな、この人の映画。根っからの芸術肌ではなくて、ストーリーは理屈で考えれば分かり、昨日の記事の「トリコロール/青の愛」のように、隠喩に閉じてしまうことはせず、きちんと映画を興行として捉えているところがある。

けれどもそんな中、最後まで説明がつかないのは、主役のジェニファー・ローレンスだ。彼女しかまともな人はいない、という構造のはずなのに、その彼女自体がちょっとタチ悪い。美人で謙虚な奥さんなのに、Xメンで演じていたミスティークみたいに、ときどき何考えてるのかわかんなくて、掴みどころがなくなってしまう。出産してしまってからはもう、どれだけ大衆にぼこぼこにされても、誰もついていけない強さになる。でもお母さんてそういうことなのかな。

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