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『DO YA DO』危うい恋心

登場人物は、"僕"、僕の想い人である"君"、君の恋人である"あいつ"。あいつに知られてはならない君と僕との関係性、公にできない秘密の恋。

何もないような 振りが出来なくて
ついつい 恋に指紋つけ過ぎてしまうね
コートの中で 君を抱いたから
ああ 恋はもう秘密の罪 着せられて

君に本命の相手(あいつ)がいることは分かっているのに夢中になってしまう、止められない気持ち。

恋人用の鼓動 いつも鳴らしてた
誰にも気づかれぬよう

隠れて逢瀬を続けていたある日、あいつにプロポーズされたことを君から聞く。何の気なしに報告し無邪気に喜ぶ君は、僕のこの戸惑いを知る由もない。

あいつが君に 愛を告げた
君が花を抱えて来た
あどけない君の顔が

初めから割り切った関係性、いつの日かこの瞬間が訪れることは頭では理解していた。しかし今となっては、君のいない日々はもう想像できない。

さすがにこれを区切りに別れるべきだ、既婚者になる君といつまでもこんな関係を続けていられる訳がない……そう思いつつも自分からその話題を切り出す勇気もない。「僕たちこれからどうするの(Do ya do)?」その言葉を胸に留め、ただ切なく微笑むばかりの僕。

DO DO DE DO YA DO 約束など
DO DO DE DO YA DO 何もなくて
微笑む僕の顔は
少しだけ…… 少しだけ……

***

詰まるところは本命彼氏のいるセフレを本気で好きになってしまった主人公が彼女の婚約話に撃沈、というストーリーだと解釈している。かいつまむと一気に品がなくなってしまったが、これを軽やかに美的に歌い上げるセンスこそがASKAの才である。

この主人公、"あいつ"から彼女を奪おうとする大胆さも婚約が決まった彼女との関係を自分から解消する気概もなく、それどころか

君は僕のこと 倖せにしてるよ
ああ 君の瞳に映る僕を変えないで

と未練たらたら、何とも女々しい。あろうことか

カタログの中で 夢を選ぶような
思いはさせてないかい

と彼女が窮屈な心地でいないかを心配しているが、浮気と並行して本命の相手と婚約まで漕ぎ着けられるぐらいの彼女はよっぽど神経が図太く狡賢い女に違いない。また、彼女にとっては奔放に生きている中の一つに主人公との交際が含まれているだけであり、彼のそのような気遣いに思いが至ったことなど一度もないだろう。

そもそも罪深さにおいて主人公と彼女は同等、いやむしろ彼女に非がある状況において、彼女が何を招いても自業自得でしかないにもかかわらず、そこに責任を感じてしまう主人公はあまりにも精神的優位性がないように思われる。

おそらく付き合うに至ったのも彼女からのアタックがきっかけだろう。そして交際が始まり円満に順調に進んでいたところ、急に「実は私彼氏いるんだよね」などと暴露されたのではないか。関係を始めたのも終わらせる(終わらせられる)のも君。主導権はどこまでも君。

***

ドゥヤッドゥ!とお洒落に歌い上げているが、よく見ればちょっとタブー感のある歌詞。そう考えるとあの半音階で動く妙なイントロは主人公の形容できない複雑な感情を示唆しているようにも思われる。そして、アウトロに繋がる部分の唐突な「パーパーパーパー」は主人公への警告音なのではないかとも推察される。

「今までも普通にアウトだけど不倫はさすがにやばいよ!今なら引き返せるから!両足浸かってしまう前に、片足しか突っ込んでいない今のうちに目を覚まして!」というアラート。そのような仮説を立ててしまうほど、あの1小節は音色も音遣いも異質でなかなかに衝撃的である。