気になるコンビニ店員は多分バンドマン
この街にも数多くのコンビニが立ち並んでいる。仕事帰りに今日はここ、明日はあそこ…など、買うものや気分によって足を運ぶ店舗を変える人も多いのではないだろうか。
「あ、この人バンドマンだ。多分」
私はこの街に越してきてから二人のコンビニ店員バンドマン(多分)に出会い、気になる魅力に取り憑かれた。今日はそんな話をしようと思う。
コンビニでバンドマンを見つけるのはさほど難しくない。
針のように鋭利なストレートヘアや目元が隠れるくらいの髪の長さは、コンビニの制服とミスマッチで只者ではないという違和感を感じさせるし、彼らにはどこかしらに一般人を装えないカリスマ性というかクセがある。
そして共通する一番の点はコンビニ店員としての仕事っぷりが抜群に素晴らしいところだ。
「視野見(しやみ)」という言葉をご存知だろうか。
綿矢りさ原作、松岡茉優主演の映画「勝手にふるえてろ」で出てきたワードである。
主人公が恋する相手のことを見たいけれど見ていることに気づかれないために編みだした技で、違うものを見ているフリをして本当は視界の隅に入っている相手に意識を集中させることをいう。
私は人の顔を見るのが苦手なので、なんとなくこれに似たようなことをよくしている。
コンビニで商品を選び、会計に進みいつものように視野見をしていると、動きに一切の無駄がなく踊るようにテキパキと身をこなしているその人がふと気になった。
はっとして顔を上げるとバンドマン。
そう、この美しい身のこなしひとつにも何ともいえないクセがあったのである。
極め付けは自動ドアに向かい立ち去るときに後ろから聞こえてきた
「あ〜っした〜〜↑(ありがとうございました)」
…なんて特徴的な挨拶をする人なんだ!
嬉しくなって夫にすぐ報告し、我が家で話題になった。
コンビニヘビーユーザーの夫も既に認知しており、名前までチェックしていた。あの仕事っぷりは職場に欲しい、オファーをしたいくらいだと太鼓判を押していた。わかる。
あれはまた違うコンビニにて、視野見も忘れるほど気の抜けた状態で決済バーコードを表示させようとしたときだった。
「○○円です」
異世界にきたようなズンと響く低音ボイスが身体の中を駆け抜けた。
…いい声!!
またもやはっとして顔を上げると、腰まではあるのではないかという長さの細い毛を後ろで束ねている少しぽっちゃり気味のバンドマンが立っていた。
ここは高級ホテルですか?というようなジェントルマンな低音の声色と見た目のギャップに驚きつつ、声が良いって得だな…と妙にドキドキしたのだった。
声フェチなのかもしれない。
彼らは何事にもスマートで立ち振る舞いが美しく、この人に接客されたら間違いないという安心感と信頼感、ホスピタリティを持っていた。
バンドマンというポリシーは曲げず、コンビニ業務にも徹底している彼らのスタンスには学ぶものがある。人は見た目じゃない。そして流れるように仕事ができる姿がとてもカッコよく見えると。
コンビニでライブチケットを売れば一回くらいは行ってもいいよってくらいには興味はあるし感謝もしている。ファンになるかもしれないし。
人気出るんじゃないかな…。
なんて思っていたら一件のコンビニが潰れてしまい一人には会えなくなってしまった。いざいなくなるとあの「あ〜っした〜っ↑」が恋しくなる自分がいる。
バンドマンはこうやって各地にファンを作っていくのだろうか。
私はあなたを忘れない。忘れられない。
クセがあるから今でも度々真似してしまう。
今どこで花開いているかわからないけど、元気でしょうか。
「あ〜っした〜っ↑」
コンビニであの声が聞こえてきたら彼の姿を探してしまう、そんな気がしてならない。
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