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CO2の長い旅の始まり 気孔 植物のカーボンサイクル(1)

大気中に放たれた二酸化炭素は、植物によって長い旅に出ることになる。この長い旅の物語をひとたび知ると植物の有難味が良く分かり、紙やプラスティックを使い捨てすることに疑問を抱くかもしれない。さあ、順を追って考えてみよう。

植物の葉の表面には気孔という窓がある。窓が開いていると風に乗って二酸化炭素や水蒸気は自由に部屋の外と内(外気と葉内)を行ったり来たりできる。陽の光が差すと、さあ窓を開けなきゃと開かれる。一方陽が暮れると、さあ閉めましょと閉められる。つまり光で自動開閉装置のスイッチがON/OFFするハイテクノロジーのドア(窓)とイメージできる。

光(青色波長域)を感じてスイッチを入れる役割をしているのが、気孔の周りの細胞(孔片細胞)にあるフォトトロピンと呼ばれるタンパク質だ。水素イオン:プロトン(H+)を細胞の外に組みだすギアが駆動する。それと引き換えに細胞外からカリウムイオン(K+)が入ってくる。細胞浸透圧が高まるのでこれを薄めるために水路から水が入ってきて水膨れすることによって細胞が湾曲してゲートが開かれるイメージだ。

残念なことに窓が開かれると、光合成に必要な二酸化炭素が入ってくるので植物はエサにありつけるのだが、部屋の外が乾燥していると大切な水が水蒸気となって出ていくので不都合である。実際はこの蒸散で出来る蒸気圧差を利用して、植物は根から葉へ水を吸い上げる力にしているので、便利な面もあるのだが、いずれにせよ急激に水を奪われると葉がしおれてしまう。そこで、樹木の仲間には葉の裏側にしか気孔を持たないものがいる。一方水草は、葉の裏側には水があって空気がないので、葉の表側にしか気孔を持たないものもいる。ユーカリは、葉の両側に気孔があって、二酸化炭素をたくさん吸うことが出来る(ユーカリの適応戦略 一つのコストで二倍の稼ぎ)。サボテンは茎に気孔があるが、乾燥しないように光のあるうちは気孔を閉じて、夜開ける(昔京都に「夜明け」という夜中から朝まで営業している店があった)。ちなみに24時間開店営業の植物を作ると、乾燥で萎れてすぐに枯れてしまうそうだ。

また、窓を閉めるスイッチの役割をしているのがアブシジン酸といわれる植物ホルモンだ。光スイッチの時と反対向けに部品を駆動させて、窓が閉じられる。アブシジン酸はどうやら道管液に乗って根からやってくるとすると、切り花では窓が開きっぱなしで、水があるのにすぐ萎れてしまうことも頷ける。

大気から葉の中に入った二酸化炭素は、長い旅に出ることになる。さて、どんな旅が待ち受けているのか、明日からの物語の続きを書くのが楽しみになってきた。

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