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生命を司る 二酸化炭素の功罪(4)

生命を構成する細胞のほとんどは「水」である。

生命は海水から誕生した。地球上の二酸化炭素濃度は現在より高かった。現在の海水のpHはおよそ8.0、一方で生命体を構成する細胞内酵素のほとんどの至適pHは、6.8〜7.3の範囲にある。少しずれていることに疑問を感じざるを得ない。水に溶けている炭酸と重炭酸イオンの数(モル比)でpHは決まる(口絵)。だとすれば、生命の至適pHが決められた当時は、海水中の炭酸分子が多かった、すなわち大気中の二酸化炭素分圧が今より高かったことを物語っているのではなかろうか?

降水のpHは平均値で4.7、近年大気汚染による酸性雨の影響もあり低下傾向にある。森林を構成する樹木への影響も深刻な問題だ。一方河川等自然水(およびそれから作られる水道水)のpHは7.0〜8.2、これは石灰石(元々は二酸化炭素が固定されてできた海洋生物などの堆積物が隆起)である炭酸カルシウムなど土壌の鉱物が雨水に溶けて、重炭酸イオンをたくさん含むようになるからである。これが海に流れ込んで、海水の重炭酸イオンは絶えず補給されて、pH8.0程度に調整している。

では、生命を司る細胞の水のpHはどのように調整されているのだろうか? 運動すると呼吸で酸素を消費し有機物からエネルギーを取り出して、細胞中に二酸化炭素が排出される。光合成の逆反応である。実は、細胞中には炭酸脱水酵素(カーボニックアンヒドラーゼ)と呼ばれる酵素があって、細胞内で二酸化炭素+水⇄重炭酸イオン+水素イオンの反応を助けている。これがpH調整のからくり(の一つ)だ。こうして生命の働きは恒常的に維持されているのである。

二酸化炭素、決して悪者ではない。いやむしろそれどころか、我々が誕生し、進化し、生命を繋いでいくのになくてはならない役割を果たすキーパーソンなのである。

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