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「樹木成分」を「人」の暮らしに役立てる 森林資源基盤型産業のリサイクル(6)アレロパシー

「森」の植物同士がコミュニケーションしている。親しいものを引き寄せ、競合するものや生命を脅かすものは遠ざけようとする。どうやら、「人」の世界同様「森」の世界でもごく当たり前に行われているようだ。

アオモリヒバの葉の精油の研究の中で、水蒸気蒸留した成分の中に抗シロアリ、抗菌、殺ダニ活性があることを見つけた。またマツタケシロの研究の中で、アカマツの菌根菌の放出する物質が、他の微生物の成長を抑えるということを知った。植物が他の植物や微生物の生長を抑える物質を放出し影響を与えることは「他感作用・アレロパシー」として知られている。空気中に放散される揮発性成分のうち殺菌作用を有するものは「フィトンチッド」と呼ばれることもある。

これらの樹木成分を有効に活用しようという試みは、古くから「人」の生活の知恵で行われてきたに違いない。ところが知恵は語り継がれていくだけで、皆で広く知識として共有することはなかった。そのため、多くの有効な活用法は失われてしまったかもしれない。「森」と共に伝統的な「暮らし」が育まれてきた中山間地域が過疎化の波で消えつつある今日、その危惧が頭をよぎる。

「スクリーニング」という技法がある。あえて盟友であった故・小久保烈王氏の名をださせていただければ、彼と「森」を駆け回ってありとあらゆる植物を集めた。植物の抽出エキスの中でもユーカリ葉エキスは、抗菌活性,抗酸化活性,美白作用など多彩な生理活性を有し、化粧品や医薬部外品に好適であった。不織布とユーカリエキスを組み合わせて「アルコール除菌ウェットティッシュ」として上市されたが、彼は志し半ばで召天し、プロジェクトは中断した。

「森」や「樹」という資源を余すことなく利用する立場から見れば、樹木の恩恵でCO2が複雑な有機炭素化合物に変換されたものを廃棄物がごとく捨て置いたり、燃やしたりするのは、あまりにも知恵が浅いと言わざるを得ない。枝葉や樹皮の中には、我々人類が未知な生理作用を持つものも含めて数多(あまた)の化合物が眠っているはずだ。それらを研究し、科学技術として後世に送り伝えたり、新製品として世に出すことは、カーボンサイクルの役割りと心得る。

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