USDZとARKit、RealityKit

近年、拡張現実(AR)の分野は急速に進化を遂げており、その中心的な役割を果たしているのがAppleのUSDZ形式とARKitです。USDZは、ARコンテンツの表示に特化した3Dファイル形式で、ARKitはそれを実現するための開発フレームワークです。この2つの技術は、iOSデバイスにおけるAR体験を劇的に拡張し、ユーザーが仮想空間と現実空間をシームレスに融合させる新しい体験を提供しています。

USDZ(Universal Scene Description Zip)は、Pixarが開発したUSD形式を基に、AppleがAR向けに最適化したファイル形式です。USDZの特長は、3Dモデル、テクスチャ、アニメーション、ライティングなどの複数のデータを一つのパッケージにまとめることができる点です。これにより、AR体験を提供するための複雑なコンテンツを効率的に管理し、軽量なファイルサイズで高品質の3Dコンテンツを表示することが可能になります。また、USDZは圧縮ファイルでありながら、ファイルを展開することなくそのまま閲覧や操作ができるため、iOSのネイティブアプリやSafariブラウザ、メッセージアプリなどでシームレスなARコンテンツの体験を実現しています。

360度コンテンツの取り扱いとVisionOSでの対応


USDZは、360度の「ぐりぐり」動かすデータ、つまりユーザーが視点を自由に動かして見渡すようなコンテンツにも対応しています。この形式では、360度の画像を環境マップとして使用したり、球体モデルにテクスチャとして適用したりすることで、仮想的な空間内で視点を自由に動かすことが可能です。特に、球体マッピングやパノラマ表示の技術と組み合わせることで、360度の体験をARやVR内でシームレスに実現できます。

また、Appleの次世代プラットフォームであるVisionOSも、USDZ形式をサポートしているため、USDZファイルを使用して360度コンテンツを扱うことができます。VisionOSは、ARKitやRealityKitと同様に3Dモデルやインタラクティブコンテンツを扱うための最適化された環境を提供し、iPhoneやiPadだけでなく、より高度な没入体験を可能にするデバイスでも利用可能です。これにより、360度画像や動画を視点変更に応じてリアルタイムで表示するアプリを開発することができます。

360度コンテンツのスキャンとUSDZ形式への変換


360度コンテンツをUSDZ形式に変換するには、まず3Dスキャンや画像撮影を行い、そのデータを3Dモデリングツールを使って加工する必要があります。具体的な手順としては、次のようになります。

1. 360度画像・動画の撮影:
• iOSデバイスのカメラアプリや、専用アプリ(例: Google Street ViewアプリやInsta360などの360度カメラ)を使って360度コンテンツを撮影します。これにより、周囲の全景を取得できます。
2. 3Dスキャンによるモデル作成:
• 物理的な空間やオブジェクトを360度で取り込みたい場合は、LiDAR(iPhone Proシリーズに搭載)などを使って3Dスキャンを行います。このスキャンデータを基に、周囲の空間や物体の3Dモデルが作成されます。
3. 3Dモデリングソフトでの編集:
• 撮影またはスキャンしたデータを、BlenderやAutodesk Maya、AppleのReality Composerなどの3Dモデリングツールに取り込みます。ここで、テクスチャ(画像ファイル)を3Dモデルに貼り付けたり、シーンの設定を行います。
4. USDZ形式へのエクスポート:
• モデルの作成が完了したら、3Dモデリングツールを使ってデータをUSDZ形式にエクスポートします。多くの主要な3Dソフトウェアは、USDZ形式へのエクスポートをサポートしているため、開発者やクリエイターは簡単にこの形式でデータを出力できます。
5. ARKitやVisionOSでの利用:
• 生成されたUSDZファイルは、iOSやVisionOSのアプリケーションに取り込むことで、ARKitやRealityKitを利用して360度のインタラクティブな体験を提供することができます。

実際の応用例


USDZ形式とARKitの組み合わせにより、家具の配置シミュレーションや教育コンテンツ、エンターテインメントなど、多岐にわたる分野で新しいAR体験が提供されています。特に、360度コンテンツやスキャンデータを使ったアプリケーションは、現実空間を仮想的に再現することで、没入感のあるインタラクティブな体験を提供します。また、VisionOSによるAR体験の進化により、さらに高度で複雑な360度コンテンツの表示や操作が可能になり、よりリアルな仮想体験が提供されるでしょう。

RealityKitとは


RealityKitは、Appleが提供するARやVRコンテンツを開発するためのフレームワークで、ARKitの上位に位置する高度な機能を備えています。これにより、開発者は物理シミュレーション、アニメーション、リアルなライティングやシャドウなど、現実世界と区別がつかないほどの没入感を持つAR体験を提供できます。さらに、RealityKitは3Dオブジェクトの動的インタラクションやマルチユーザーARセッションをサポートしており、複数のデバイス間でリアルタイムに連動するAR体験を作成可能です。特に、USDZ形式とシームレスに統合されており、複雑な3Dデータを効率的に扱えます。iOS13以降やmacOS 10.15以降、visionOSのアプリで扱うことができます。

ARKitとRealityKitの違い


ARKitとRealityKitはどちらもAppleが提供する拡張現実(AR)向けのフレームワークですが、異なる目的と機能を持っています。

ARKitは、ARのための基礎的なフレームワークで、主にデバイスのカメラやセンサーを利用して現実世界の空間を認識し、その空間内に仮想オブジェクトを配置する役割を果たします。これには、平面検出、物体追跡、顔認識などの基本機能が含まれており、開発者が容易にAR体験を作成できるようになっています。ARKitは、シーンの基本的なAR機能を提供することに優れており、3Dオブジェクトの配置や単純なインタラクションを実現できます。

一方、RealityKitは、ARKitの上位フレームワークとして、より高度で複雑なAR体験を実現するための機能を提供します。特に、物理シミュレーションやアニメーション、高度なライティングやシャドウの処理を行い、よりリアルで没入感のある体験を作成できます。また、RealityKitはUSDZ形式との強力な連携により、高品質な3Dコンテンツをネイティブに表示することができ、マルチユーザーでのリアルタイムAR体験にも対応しています。

要するに、ARKitはARの基本的な機能を提供するフレームワークであり、RealityKitはさらに一歩進んで、リアルな物理的な挙動やリッチなビジュアル表現を加えることができるフレームワークです。RealityKitを利用することで、ARKitの機能に加え、より直感的でインタラクティブなAR体験をユーザーに提供することができます。

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