外観

不忍界隈(vol.1)石島豆腐店

 豆腐屋のある町に引っ越してきた。

 僕が生まれ育った町にも、これまで暮らした街にも豆腐屋はなかった。豆腐といえばスーパーで販売されている、パックされたものだった。それが、アパートから歩いて一分とかからない場所に豆腐屋がある。引っ越した翌日、鍋を抱えて豆腐を買いに出かけた。豆腐屋で買い物をするのは初めてで、勝手がわからず、少し緊張したのをおぼえている。その日口にした豆腐はあまりに香りが良く、今まで食べてきた豆腐とは別物であるように思えた。それからというもの、朝がくれば豆腐を買い求めて、味噌汁を作るようになった。そうしているうちに、この豆腐屋はいつからこの場所にあるのだろうかと考えるようになった。

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