no title

「ごめん、ちょっともう余裕ない」

夜も深まった2人きりのオフィス。お互い好き合っていたのがわかると、彼は2回キスをした。1度目は触れるだけの甘いキス、2度目はさらに熱を帯び、蕩けるようなそれだった。いつもの人懐っこい笑顔で放たれた彼の言葉は、表情とは裏腹に有無を言わせぬ強い印象を与える。

「好きです。・・・大好き。」

「あんまり可愛いこと言わないでよ」

胸に溢れてやり場のなかった想いが、堰を切ったように次々と零れてゆく。やがて与えられた3度目のキスには息苦しささえおぼえた。優しく抱きしめられて、直に感じる彼の体温に浮かされる。

「・・・朝までの時間、俺にくれないかな。」

耳元で囁くようなその問いかけに、私の胸は痛いほどに疼いた。ただただ頷くことしかできずにいたら、安堵したように彼は笑って、帰ろう、と私の頭を撫でた。





部屋に向かうエレベーターのなかで、握った彼の手に力が籠るのを感じた。綺麗な長い指がより一層絡められる。

「部長・・・?」

「あっ・・・、ごめん。・・・ちょっとほんとに、ダメだ俺。」

自嘲気味に笑った彼に続いてエレベーターを降りる。玄関に招き入れられ、扉が閉まったその時、

「きゃっ・・・!」

気づくと唇に生あたたかく柔らかい感触。いつの間にか背後は壁になっていて、一歩も動くことはできなかった。混乱している最中にも口づけは角度を変えて幾度も繰り返される。私を求めるような彼の舌に応えるのがやっとで、呼吸も思考もままならない。やがて立っていられず膝から崩れ落ちそうになった私を、彼の腕がしっかりと支えていた。

「急、すぎますよ・・・」

「余裕ないって、言ったよね」

わずか数センチの距離にいる彼を見上げる。まるで吸い寄せられたかのように、真っ黒な瞳に目を奪われた。私ほど乱れてはいないけれど少々荒くなった呼吸で、いい?と遠慮がちに問われる。恐る恐るそれに答えるとほぼ同時に、再度深く深く口づけられ、彼の指は私のコートのボタンを外しはじめた。