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『憧れのヒゲダンス』《#シロクマ文芸部》

※こちらは、小牧幸助さんによる

「舞うイチゴ」から始まる小説・詩歌を書きませんか?

という企画への参加作品となります。


舞うイチゴと縁ある人生になるとは……。

「はい、これを口にくわえて!」

ぐいっとフォークの柄を口内に差し込まれたので、上下の歯で挟み込み、少し口をすぼめた。

「ミュージック、スタート!」

MC役の芸人が勢いよく叫ぶ。

デデデデ、デンデンデ、デンデンデ、デンデンデン♪

会場に響き渡るヒゲダンスの音楽。

観客はリズムよく手を叩きながら、俺の方に目を向ける。

期待されていると思った途端、背中と脇にじんわりと汗を感じた。

3メートルほど離れた場所にいる相方は、左手で果物籠を持ち「どの果物を投げるか?」まさぐっている。

投げるものが決まったようで、俺に「しっかりキャッチしろよ」というアイコンタクトを送っている。

「いくぞ!」

相方が投げた果物はひとつではなかった。

リンゴ、ミカン、イチゴが宙を舞い放物線を描く。

「どれかひとつはフォークに刺さないと!」

脳内を高速回転させて、最適解を探し出す。

舞うイチゴに俺は照準を定め首を上に向けた。

フォークの先端の角度を少しだけ変える。

サクッとイチゴがフォークに刺さる感触があった。

コンプライアンスを考え、リンゴとミカンは右手、左手でしっかりキャッチ。

顔を客席に向けると、万雷の拍手が起こった。

一度やってみたかったカーテーシーっぽいお辞儀をしてみる。

拍手が、なお大きく轟いた。

今日は3月29日。

俺がお笑い芸人を目指すきっかけを与えてくれた志村けんの命日。

初めての果物キャッチを成功させた俺は、心の中で手を合わせた。

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