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実は切ない!アドバイスおじさんが出来上がる理由

もう10年以上前になるが、ある仲間内の集まりがあった。

その集りには、僕も定期的に参加していたのだが、僕より10歳近く年長の男性(以下Bさん)がおり彼が度々、問題行動を起こしていた。

具体的に挙げると
・デリカシーのない言動で相手を怒らせる
・頼まれていないのに、助言をして相手を怒らせる
・年下の人間に近づき怪しいビジネスに誘う

Bさんは初対面から感じが悪かった。

すこぶる偉そうなのだ。

彼は「この人には、近づかんとこう…」一瞬で判断できるほど横柄だった。

Bさんの行動を観察しているとパターンがあった

・数人で何かプロジェクトを始めようとした際、首をつっこむ
・求められていない意見や、余計な行動をとり顰蹙を買う
・問題を起こし謝罪を求められると「俺は悪くない。お前らが悪い」と逆ギレする

こんなことを繰り返していて、仲間ができるわけがない。

彼はだんだんと孤立し始めた。

最近、アドバイスおじさんという言葉が定着しつつある。

画廊に現れ若手の画家に、求められていない助言を一方的にしてしまうおじさんの呼称。

アドバイスおじさんの好物は、自分より年下のまだ人生経験を積んでいない若い人。

なぜアドバイスを送りたがるかといえば、相手のためではなく、自分の支配欲、承認欲求を満たすためだ。

Bさんは、アドバイスおじさんそのものだった。

最初は彼の問題行動を目の当りにしながら「いい年して常識のない面倒な人だ」と煙たく思っていたのだが、だんだんとBさんがなぜそのような人格になっていったのか関心を持つようになった。

オギャーと生まれた瞬間、そのような人間であるわけがない。

必ず理由があるはずだ。彼がアドバイスをおじさんになった背景を知りたかったのだ。

ある日、Bさんも参加していた飲み会で彼と話す機会があった。

「こんな偉そうな人、世の中におるんや…」と辟易するくらい彼は上から目線で常に話す。

時間をかけて彼の背景を聞き出してみた。

すると小学校高学年から、思春期にかけて強烈ないじめに遭っていたことを教えてくれた。

過度に偉そうに振る舞うおじさんの何割かは、心に傷を抱えていることが多く、しかもそれを開示するのが苦手だ。

傷ついた自分を防衛する方法として、人を見下すという悲しい選択をとる人もいる。

心のバランスをとるために、「自分はいつも正しくて世間がいつも間違っている」「自分は賢いが、自分以外はバカばかり」という歪んだ信念を持つようになるのだ。

いわゆる闇落ちというやつである。

闇落ちによって、認知がさらに歪む。

三十路を過ぎてこの状態が固着すると、改善は難しい。

なぜならどんどん孤立するため、改善点を伝えてくれる人がいなくなるからだ。

自己愛が不健全に肥大化しているので、改善点を少し告げられるだけで自己愛が傷ついて、相手を攻撃したり不貞腐れたりしてしまう。

昨日『ケーキの切れない非行少年たち』の漫画3巻

を読んでいて、Bさんのことを思い出した。

性犯罪を繰り返す少年の認知がいかに歪んでいるのかを、わかりやすく描写していた。

3巻で描かれていた性犯罪を起こす少年は、同世代や自分より年長の人間とコミュニケーションがとれない。いつも寂しさを抱えており、唯一、心を通わせられる(と本人が解釈しているに過ぎないのだが)と感じているのが、幼い少女である。

少女の母親からすれば、自分の愛娘へ見知らぬ少年が近づいてくるのは恐怖でしかない。

彼は自分のコミュ力がないことを自覚しているので、コントロール可能と思える存在としか接触をはからない。

僕にはこの少年がBさんと重なった。

これを見ていてBさんが、自分よりも若い人間としか付き合おうとせず、アドバイスばかり送る理由がよくわかった。

しかしひとつズレがある。

Bさんがアドバイスする相手は確かに彼より年下なのだが、みんなBさんよりも人間関係の経験を積んだ大人だ。

よって「手なづけたい」というBさんの思惑は、ことごとく外れる。

『ケーキの切れない非行少年たち』の内容をnoterの、らぱんさんが、画像を用いてわかりやすくまとめられていたので、引用させていただくが、

社会という荒波を渡っていく上で「適切な自己評価」を身につけなければならない。

自己を客観視して等身大の自分を知る必要がある。

Bさんは「俺はひろゆき、ホリエモンと同種の人間で、ある種のサイコパスだ。ゆえに世間から理解されない」と自己正当化していたが、自己認識が大きくズレていた。

彼が自身を適切に評価できないのには理由がある。

10代で友達付き合いをほとんどしてきてこなかったからだ。

宮口幸治さんは自著の中で、適切な自己評価は「偏りのない情報収集力」「他者との適切な関係性」が必須であると書かれていた。

精神の均衡を保つために、自分を過大評価するようになると、自分に関する客観的な情報を得ずらくなるだけでなく、他者と適切な関係を結べなくなる。

「一方的に自慢話ばかりをする支配的なアドバイスおじさんとなど、付き合いたくない」というのが多くの人の本音だ。

どんどん暴走が加速していったBさんとは、その後疎遠になったが、今どうしているだろうか?

ひとりぼっちの彼は、他者とのつながりを強烈に求めていた。

しかし、どのアプローチも上手くいかず悪循環に陥っていた。

最近世間を騒がしている無敵の人と称される人たちの生い立ちを調べると、例外なくハードだ。

Bさんの人間性が歪んだ理由を知って、世のアドバイスおじさんと称される人たちも、きっと人に言えない寂しさを抱えているのだろうと思うようになった。


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