トランプ氏孤立深まる 議会乱入に揺れた政権内幕

 【ワシントン】ドナルド・トランプ米大統領は7日夜、自身の罷免要求が強まる中、支持者による連邦議会議事堂への乱入は「許しがたい攻撃」と述べ、1月20日に正式にホワイトハウスを去る意向を示した。

 大規模な選挙不正があったと約2カ月にわたり唱えてきたトランプ氏。乱入に先立つ集会で、支持者らに議事堂へと向かい「闘う」よう求めていたが、約3分のその動画で、乱入事件への責任は一切認めなかった。その上で、国家には癒やしが必要だとして「冷静さを取り戻すべき」だと主張。「円滑な政権移行」を確約すると表明した。

 米東部時間7日午後7時過ぎにこの動画が投稿されるまで、顧問らは背後で、一連の騒乱に断固とした対応を示すようトランプ氏に迫っていた。複数の取り巻きは公然とトランプ氏の対応を批判。ホワイトハウスの法務顧問パット・シポロン氏は、議会乱入を巡り、トランプ氏は法的リスクにさらされる恐れがあると警告した。会話の内容を知る関係筋が明らかにした。

 トランプ氏はその日、大統領の座に上り詰める上で大きな武器となったソーシャルメディア(SNS)へのアクセスを断たれていた。顧問らはトランプ氏の様子について、怒りと孤立を強めていったと明かす。ツイッターはトランプ氏のアカウントを一時凍結。フェイスブックは新たな投稿を禁止した。

 トランプ氏は就任以来、危機に直面すると、往々にして友人や顧問に助言を求め、長時間にわたり電話で協議してきた。だが側近らによると、6~7日は様相が一変した。大統領に最も近い複数の顧問らがトランプ氏の対応を公然と非難したためだ。トランプ氏は、クリス・クリスティー元ニュージャージー州知事など、顧問らからの電話を拒絶。クリスティー氏は6日、暴動をやめるよう支持者に呼びかけるべきだと電話で伝えため、25分にわたりトランプ氏への接触を試みたと述べている。

ホワイトハウスはコメントを控えた。

 顧問らによると、トランプ氏はなお、マイク・ペンス副大統領が自身を裏切ったとして怒りを募らせている。上下両院合同会議でジョー・バイデン次期大統領の勝利を正式に認定する手続きを阻止しなかったためだ。複数の政権関係者は7日、「闇の中にある」トランプ氏を避けようと、大統領執務室には近づかなかった。顧問らによると、トランプ氏は乱入事件を後悔しているというよりは、選挙の敗北で頭がいっぱいのようだという。

 トランプ氏と最近言葉を交わした別のある顧問はこう語った。「まるで誰かが自滅しているのを目にしながら、何もできない状況だ」

 トランプ氏が6日、ホワイトハウスから支持者を前にした集会へと向かう直前、ペンス氏は一部選挙人の票を無効にする憲法上の権限は自分にはないとトランプ氏に伝えた。内情に詳しい関係者が明らかにした。ペンス氏はこの道から外れれば、悪しき前例を残すことになると述べたという。

 関係筋によると、トランプ氏は激怒し、「あなたの友人でいたいとは思わない」とペンス氏に言い放った。

 トランプ氏が部下の中でも特に忠実なペンス氏に攻撃の矛先を向けたことで、側近の間では動揺が広がった。顧問からは、選挙結果を覆すよう求めるトランプ氏から圧力を受けながら、憲法を順守したとしてペンス氏を称賛する声も上がった。

 議事堂での暴動が起こった6日には、連邦上院議会2議席を巡るジョージア州の決選投票で、いずれも民主党の勝利が確定。これにより民主党は20日から政権と上下両院の主導権を握ることが決まり、トランプ政権と共和党にとっては、さらなる痛手となった。複数のトランプ氏顧問は、トランプ氏が選挙不正疑惑を声高に唱えていたことが、決選投票での敗北につながったと指摘している。

 議事堂乱入から24時間に、トランプ氏の周辺からは離反が相次いだ。7日にはイレーン・チャオ運輸長官が閣僚では初めて辞任を表明。少なくとも政権当局者5人が辞任したほか、ロバート・オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)を含め、辞任を検討している当局者が複数いると側近らは話している。ただ、オブライエン氏は安全保障上の懸念から、当面は職にとどまる見通しだという。

 ある顧問は「これがいかに悪い状況か、政権関係者は現実を直視している」と話す。政権関係者の多くは一連の経緯に落胆しており、非常に後味の悪い政権の幕切れだと感じているという。

 こうした混乱のさなかでも、トランプ氏は通常通りを貫こうとしていた。

ホワイトハウスに近いある関係者によると、側近らは議事堂乱入を非難するようトランプ氏を説得するのに苦戦した。

 ペンス氏を含め顧問らは、トランプ氏が行動を渋っていることに幻滅した。トランプ氏は周囲にうまくなだめられてようやく、暴徒化した支持者らに自宅に帰るよう促すツイートと動画を出した。同氏はその中で支持者らを「とても特別」と呼び、「愛している」と述べている。関係筋の1人はこれについて「本心では何もやりたくなかったからだ」と明かした。

 トランプ氏に近い関係筋によると、大統領の取り巻きは過去最小まで減った。トランプ氏は目下、スティーブン・ミラー氏ら、忠誠心の非常に強い数人の顧問らを通じてコミュニケーションしている。これまでトランプ氏を強く擁護していきたリンゼー・グラム上院議員(共和、サウスカロライナ州)でさえ6日夜、上院議場でこう述べている。「一抜けた。もうたくさんだ」

 一部の政権当局者や外部の大統領顧問らは、合衆国憲法修正第25条発動によるトランプ氏の罷免について協議を開始した。ある政権高官や事情に詳しい関係筋が明らかにした。議会でも与野党から罷免要求は強まっている。修正第25条では、トランプ大統領が任務を執行できないと閣僚が判断した場合、ペンス副大統領が大統領職を代行できると定めている。だが、協議に詳しい関係筋によると、トランプ氏の任期切れが迫っていることなどから、実現する見込みは薄いとみられている。

 トランプ政権の残り13日がどうなるかは分からない。政権当局者は再生可能エネルギーに関する「バイ・アメリカン(米国製品の購入・使用)」義務づけなど、一連の大統領令を策定しているが、複数の当局者らは、トランプ氏の関心を政策に向けるのは難しいと話している。

 また、政権当局者は足元、恩赦を巡る議論にも追われている。候補には人気ラッパーで、昨年12月に武器不法所持の連邦罪を認めたリル・ウェインらが含まれている。トランプ氏は昨年10月に同氏と会っている。

 トランプ氏はまた、退任前に自身への恩赦を出すことも検討していると顧問らに漏らしている。関係筋が明らかにした。これについては、米紙ニューヨーク・タイムズが先に報じていた。

 米司法省が1974年に出した法的文書によると、「誰も自分の裁判で判事になることはできない」とし、法的原則の下、大統領は自分を恩赦することはできないと定めている。だが、一部の法律専門家は、まだ一度も司法の場で争われたことはないとして、司法省の見解に反論している。トランプ氏は2018年、自身を恩赦する「絶対的な権利」を有しているとして、こう述べている。「でも、何も悪いことをしていないのに、するわけがないだろう?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?