吉野彰氏「分岐点は2025年。アップルに要注意」

電池産業には2025年に分岐点がやってくると見ている。IT革命では、高速通信などの新しい技術がそろって電池の市場が立ち上がるまで15年を要した。「ET(Energy & Environment Technology)革命でも同じ図式だろう。10年に日産自動車の「リーフ」が発売されてから15年間の準備期間を考えたら、25年が勝負どころとなる。

 もう一つ、25年以降は自動運転の世界が現実のものになってくることもある。無人運転では人工知能(AI)がルートを判断し、自動で人を運んでくれる。車の稼働率が上がれば、電池は耐久性がより重視されるようになる。

 そのときに予想されるのは、米グーグルの(共通OS=基本ソフト=である)アンドロイドのような世界になってくることだ。特に、米アップルのEVは要注意。アップルが開発している電池には、「リン酸鉄系」の正極材料が用いられているとされている。エネルギー密度はそれほど高くないものの、耐久性が抜群。つまり、無人自動運転の世界で必要とされるものを開発しているし、それに目をつけている時点でやはりアップルは要警戒だ。

テスラもグーグルと一緒だと見た方がいいだろう。今、スマートフォンはIT社会の基幹ツールになっている。それを使って川下のビジネスで成長をしたのがGAFA。車の場合も戦略が全く一緒だから、スマホと同じことをテスラやグーグルは考えているのだろう。

 日本の産業もぼやっとしていたらテックジャイアントの下請けになってしまう。この車がないと川下のビジネスはそう簡単にできませんよ、という存在になるとか、リサイクル技術を確立するといったことも欠かせない。

 先行していた日本の電池産業が衰退していった理由は単純明快。いわゆるガラケーやラップトップパソコンはかつて日本が世界を制覇していたのに、(製造が)韓国や中国に移っていった。当然、それらに使う電池は韓国や中国で作った方がいい。半導体や液晶と同じパターンだ。

ただ電池材料では日本の優位性はまだある。技術革新が続いていく限り材料革新も当然続く。日本の自動車産業が世界で優位性を持っている限りは電池の競争力も維持できるのではないか。

 車載電池では電池と車のすり合わせが必要で、これは自動車メーカー傘下でやっていかないと難しい。日本として1つに統合していくのはなかなか難しいが、材料メーカーと自動車産業が技術面で一体となり、直結する格好に変わっていくのではないか。

 50年に二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするという政府目標に向け、EVは使命を背負っている。例えば車を蓄電システムとして使うような発想をすれば、再生可能エネルギーの普及を促すことになるとアピールもできる。

 仮に100万台のEVが普及したとしたら、蓄電容量は膨大な量になる。いつまでも鶏が先か、卵が先か、という話をしている場合ではない。

 25年に分岐点が来るのは間違いない。そこで若い日本人技術者がどれだけ活躍できるかどうか。この5年間で相当変わるだろう。でも日本人はばかじゃないから、僕は大丈夫だと思っているけどね。(談)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?