デルタ株にもコロナワクチンが効く理由

研究者によると、新型コロナウイルスの初期型を標的としたワクチンは、デルタ型に対しても効果を発揮している。初期型ウイルスに比べ、デルタ株はワクチンの効果をすり抜けられるほど大きな違いがないためだ。

 それでもデルタ株にはそれなりの違いもあり、完全な防御に必要な免疫反応を得るためには、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを2回接種するか、1回接種型のワクチンに追加接種をしなければならないとの研究結果もあるという。

 現在も研究は続いているが、承認されたコロナワクチンに関しては、デルタ株に対する有効性はやや低下するものの、重症化を防げることが示されている。

 保健当局はワクチン接種がデルタ株に対する最大の防御策であるとし、予防接種を受けるよう呼びかけている。

 サスカチュワン大学のウイルス学者、アンジェラ・ラスムセン氏は「陽性反応は出るかもしれないが、ワクチン接種を完了した人の大部分は、(デルタ株で)重症化しないか、全く症状が出ない」と述べている。

 昨年のワクチン開発中には存在していなかった変異株に対してワクチンが有効なのは、コロナウイルスのスパイクタンパク質を幅広く標的とした設計のおかげだ。

 コロナウイルスの表面に突き出しているスパイクタンパク質は、この病原体の特徴であり、免疫系の防御力を結集させようとするワクチン開発者が標的とするものだ。

 大半のワクチンと同様に、新型コロナワクチンはウイルスに感染したと体に錯覚させることで、本物の病原体が来たときに戦える分子の「武器」を作るように免疫系を備えさせる。

 ワクチンは、ウイルスが細胞内に侵入して増殖するのを防ぐ中和抗体を生成する。この抗体はスパイクタンパク質に結合することで、ウイルスが細胞に感染するのを阻止しようとする。

 ウイルスが突然変異によって変異株となるのに伴い、スパイクタンパク質の部位が変化する。そのため、ワクチンによって作られた抗体は、変異した部分を認識できない可能性があり、スパイクタンパクに結合することが一段と困難になる。

 イエール大学グローバルヘルス研究所のサアド・オマー所長は、「飛行機のある機種でパイロットの訓練をしておきながら、実際のフライトでは少し違うモデルが登場するようなものだ」と語った。

 しかし、ワクチンはスパイクタンパク質の大部分を標的としているため、今のところ、デルタ株を含む若干の変異株はどれも、ワクチンで生成された免疫防御を逃れられるほどスパイクタンパク質の変化は大きくない。

 研究者によると、ワクチン接種完了者で生成される抗体の数は非常に多く、十分な抗体がスパイクタンパクに結合してウイルスをブロックすることができる。

 2回の投与が必要なのは、1回だけの投与では中和抗体の効果がそれほど高くなく、変異株の存在を踏まえれば、より高レベルの抗体が必要となるためだ。

 また、2回の投与によって生成される中和抗体の量が増え、さらに強い免疫反応が起こる。

 イエール大学の免疫学者である岩崎明子氏によると、2回目の投与で感染予防の閾値(いきち)を超えるのに対し、1回目の投与だけでは、感染予防に不十分な準最適レベルの抗体が誘導される。

 また、2回目の投与では、二つの免疫系の武器も強化される。感染した細胞を追跡して破壊するT細胞と、血液中を循環してウイルスを検出し、抗体の生成を促すメモリーB細胞だ。

 ラホヤ免疫学研究所(カリフォルニア州)のウイルス学者、シェーン・クロッティー氏によると、どちらも重症化を防ぐのに役立っている可能性が高い。例えば、T細胞は中和抗体よりも多様な方法でウイルス細胞を認識するほか、変異株に対抗する強度を保持するとみられるという。

 米製薬大手ファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンや、英製薬大手アストラゼネカのワクチンは2回の接種後、デルタ株に対する高い有効性を示した。医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に21日掲載された研究で明らかになった。この研究は2万人近くを対象に実施された。

 イングランド公衆衛生局(PHE)がスポンサーとなったこの研究によると、ファイザーのワクチンは2回接種後のデルタ株に対する有効性が88%であったのに対し、1回目の接種後は36%だった。一方、アストラゼネカ製ワクチンの有効性は2回接種後が67%、1回接種後は30%となった。

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