大阪のコロナ治療最前線から見える「抗体カクテル療法」の効果と課題

 新型コロナウイルスの感染者が爆発的に増え、患者の重症化と医療体制の崩壊を防ぐ切り札として軽症・中等症患者向けの治療法「抗体カクテル療法(ロナプリーブ)」が注目を集めている。海外の臨床試験では重症化リスクを7割減らすとの報告があり、トランプ前米大統領が投与を受けたことでも知られる。日本政府も積極的な実施を呼びかけているが、効果はどうなのか。大阪のコロナ治療の最前線で、当事者に話を聞いた。

 「点滴を打ってすぐに体が軽くなった。これほど効くとは思わなかった」。難病の「拡張型心筋症」の基礎疾患がある大阪府豊中市の会社員男性(37)は、7月29日に国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)で抗体カクテル療法を受け、予想以上の効果に驚いた。

 男性はコロナに感染後、40度近い発熱があり、拡張型心筋症の治療を受けている同センターのコロナ病床に入院。分類上は軽症だが、会話ができないほどつらかった。担当医から、基礎疾患によって症状が悪化する可能性を指摘され、抗体カクテル療法を提案された。発症から7日目までの投与が推奨されており、投与が早いほど効果があるとされているが、男性は既に発症から4日目が経過。薬剤が届くのはさらに2日後になる。効果には半信半疑だったが、悪化すれば命に関わるため、すぐに治療を承諾した。点滴を打ち始めて1時間ほどで熱は37度台に下がり、話したり起き上がったりすることもできるようになった。男性は「効き目は抜群。早めに投与すればもっと効果が上がるはずだ」と話す。

 他の医療機関でも効果を実感している。コロナ専門病院(現在は一般診療も受け入れ)として知られ、7月29日からこの療法を導入している大阪市立十三市民病院(大阪市淀川区)では、8月11日までに酸素投与を行っていない20~80代の24人に抗体カクテル療法を行った。このうち20人は熱が下がり、全身の倦怠(けんたい)感が改善した。

 西口幸雄病院長は「解熱剤で熱を下げた場合は再び熱が出るが、抗体カクテル療法では上がらない。第4波と第5波では患者の年齢層が違うため比較はできないが、入院日数も短くなっている印象がある」と説明し、「解熱剤や栄養剤を投与しながら回復を待つしかなかった中等症患者に、使える薬が出てきた意義は大きい」と評価する。

 一方、課題もある。まず、世界的な需要の高まりで供給量が限られていることだ。政府は年内に20万回分を確保したとされるが、感染拡大が続いたり供給が遅れたりすると、必要な患者に届かない恐れがある。

 また、投与が遅れると効果も低下する傾向がある。十三市民病院では発症から3日目、4日目の投与が多かったが、6日目となった1人は症状が改善しなかった。西口病院長は「発症から日数がたち、治療の効果が見られないほどウイルス量が増えてしまったためではないか」と推察する。

 投与から24時間以内に重いアレルギー反応のアナフィラキシーが起きるとの報告もあり、自宅療養での使用は難しい。基本的に入院して投与するところ、政府は宿泊療養施設でも可能とするよう13日に規定を改定して運用拡大を図るが、いずれにせよ病床や施設の確保が必要だ。現在、感染拡大で患者の入院も遅れがちとなっており「早く入院し、投与が受けられる体制をつくってほしい。しかし一番重要なのはコロナにかからないこと。治療薬は万能ではない」と訴える。

 医療機関の声を受け、大阪府も体制整備を目指す。府内では13日までの2週間で軽症・中等症病床の使用率が2倍以上に上昇するなど、病床の逼迫(ひっぱく)が現実味を帯び始めている。早期治療、早期退院による病床の効率的運用は必須で、吉村洋文知事は「軽症の治療薬はロナプリーブ(抗体カクテル療法)しかない。積極的に活用したい。そうすれば病床も逼迫しない」と期待を寄せる。府は50歳以上や基礎疾患を持つ軽症・中等症患者を入院させて投与し、早ければ1泊2日で退院して宿泊療養で経過観察する方針だ。【高野聡、近藤諭】

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