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鉄の檻

いつだったかに寄ってみた、大阪の南の山の裾、奈良時代?創建の『天野山金剛寺』。

きゃしゃな門の向こうには、
大きな立派な塔頭群が、上代のまだ様式定まらぬままに配置された感、それらが未舗装のでこぼこ砂礫の上にあるさまは、
大切につくられたものが、早々に大きな流れから外れた瀬に打ち上げられ、傾いだまま留められたような印象である。

立ち位置も立地も派手ではないから、予備知識のないまま行くと、不思議。
江戸期のものだったら、鎌倉期のものだったら現在に繋がっている気がするけれど、
上代のものは…
古すぎて不思議です。

特に平安末期の日本最古とされる多宝塔は、二層の屋根の精緻な組み木、その間の真っ白の饅頭のように、野菜のカブラのようにどこよりも膨らんだ壁のお腹?が、
その大真面目な佇まいが、異形である。
僕の見た時は大改修前で白黒の無彩色だったからなおさら。

『江戸時代以前に建ったのには違いがないようだが、鎌倉だか室町だかまるで瞭然せん』
はっきりせん。

久しぶりに『鉄鼠の檻』を読み返して、天野山の多宝塔のことを思い出した。

小説の中では、箱根の山中で発見された、いつ創建されたかもわからない古い寺院群。そこで禅宗の各宗派から派遣された僧侶たちが、惑いながら修行している。

建造物についてはそれ以上は、言及されない。ずっしり重量の京極ミステリーの文章が長くなると、持てなくなるのを防ぐためか。
簡素な説明ゆえか、最後にすごくびっくりすることが明かされる。人が何人死んだよりその推理より、僕は驚いた。すごいのだから。

そういえば金剛寺には『日月屏風』という不思議な絵もある。子供が描いたような大きな山にに丁寧な彩色の施された、室町期の。
作者不詳の、国宝。

『鉄鼠の檻』には山肌を滑り落ちてしまった建物も出てきましたね。神奈川の根府川駅がそうだった。

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