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【私の好きな曲#2】Phoebe Bridgers / Motion Sickness

ひとことまとめ

アメリカのシンガーソングライター、Phoebe Bridgersによるシングル曲。2017年7月18日のデビューアルバム「Stranger in the Alps」からのセカンドシングルとしてリリースされた。

タイトルのmotion sicknessとは「乗り物酔い」のことだが、これは曲のリリースから2年後の2019年に明かされることになる重い事実を反映したもの(解説をご参照ください)となっている。

その事実の重さとはうらはらに、曲調としては新しい季節、旅の始まりを予感させるような瑞々しさに満ちていて、目を閉じて聴いているとどこまでも歩いていけそうな気持ちにさせてくれる。

解説

I hate you for what you did
And I miss you like a little kid
I faked it every time
But that's alright
I can hardly feel anything
I hardly feel anything at all

あなたのしたことが嫌い
そして子供みたいなあなたが恋しい
私はいつも嘘ついていたけど大丈夫
だって私はほとんど何も感じない
私はほとんど何も感じない
(筆者訳)

冒頭で"You"を非難するところから始まるこの歌詞だが、"You"とは一体誰なのだろうか。その答えは曲のリリースから2年後の2019年にNew York Times誌上で明かされた。

この記事では、Phoebe Bridgersを含む複数の女性が、性的/精神的虐待をRyan Adamsから受けていたと証言している。Ryan Adamsは自身もシンガーソング・ライターでありつつも、PAXAMというレコード・レーベルのオーナーでもあり、その優位な立場を利用して、複数の女性に対し虐待行為を行っていたという(その複数の女性のなかには、彼の元妻であるmondy mooreも含まれている)

なお、Ryan Adamsは謝罪しつつも、事実と異なる点があると主張している。

この話の一連の流れは、いわゆる#MeTooムーブメントの一つとも言えるが、これを「Phoebe BridgersによるRyan Adams告発の曲」とラベル貼りして片付けてしまうには、とてももったいない。

I have emotional motion sickness
Somebody roll the windows down
There are no words in the English language
I could scream to drown you out

感情的な乗り物酔いになっちゃったみたい
誰か窓を開けて頂戴
イングリッシュでは言葉が見つからない
私が叫べばあなたなんて消えてしまうのよ
(筆者訳)

サビでは、"I have emotional motion sickness, Somebody roll the windows down"(感情的な乗り物酔いになっちゃったみたい、誰か窓を開けて頂戴)と歌われる。メロディーが心地よく、彼女の透明な歌声はどこまでも高い空に伸びていくような躍動感に満ちている。

今すぐ窓を開け、言葉にならない言葉を叫べば、どこか遠くに光が見いだせそうな予感がする。過去の様々な想いを抱えつつ、それでも新しい季節に向かって歩き出す、そんな希望を感じる曲だ。

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