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【私の好きな曲#5】くるり / ばらの花


ひとことまとめ

日本のロック・バンドくるりが2001年1月24日に発表したシングル曲。続いて2月21日に3枚目のアルバムとして発表した「TEAM ROCK」にも収録。

2000年代初頭の日本のオルタナティブ・ロックはダフト・パンクの影響が絶大で、ダンス・ミュージック ✕ ロック・ビート ✕ 日本的なメロディーの融合の実験にみんなで熱狂していた時代だった(この曲のコーラスにSUPERCARのフルカワミキがクレジットされているのもその流れだろう)。

この曲はちょうどそのような時代の真っ只中に生まれたものだ。

ただし、この曲で踊れるかというとそういうわけでもない。イントロのピアノの乾いたリフレイン、ミュートしたエレキ・ギターの朴訥とした刻みとベースの無表情な8ビートが、まるでジム・ジャームッシュの映画のようなモノトーンの雰囲気を醸成し、ヴォーカルの叙情的なメロディーを全面に押し出しているので、全体としてバラードと言ってもいい聞きごこちになっている。

解説

くるりは1996年に京都の立命館大学の音楽サークルで結成。当時のメンバーは、岸田繁、佐藤征史、森信行の3人だった。1998年にシングル「東京」をリリースし、メジャーデビュー。

今年(2022年)で結成26年とかなりキャリアは長いが、岸田繁、佐藤征史を除くメンバーの入れ替わりが激しく、Wikipediaによるとこれまでに8回のメンバー交代が行われている。

ここで個人的な主観を書かせてもらうと、くるりの才能が一番開花したのは2000年〜2004年ぐらいの頃だと思う。シングルでみていくと、以下のように名曲のオンパレードである。

2000年:春風、ワンダーフォーゲル
2001年:ばらの花、リバー
2002年:ワールズエンド・スーパーノヴァ、男の子と女の子
2003年:HOW TO GO、ハイウェイ
2004年:ロックンロール

2000年〜2002年にかけては、ダンス・ミュージックとの融合に取り組み、その成果が「ワールズエンド・スーパーノヴァ」に結実した。

DO BE DO BE DA DA DO
スタンバイしたらみんなミュージックフリークス
1,2,3でバックビート
ピッチシフトボーイ全部もってって
ラフラフ&ダンスミュージック 僕らいつも笑って汗まみれ
どこまでもゆける

ワールズエンド・スーパーノヴァ / くるり

歌詞だけ見るとまるでラップのようだが、叙情的なメロディーに丁寧に乗せているので、まぎれもなくロックの曲になっている。

2003年以降は再び伝統的なバンド・サウンドに戻り、曲名もずばり「ロックンロール」という曲に結実した。

進めビートはゆっくり刻む
足早にならず確かめながら
涙を流すことだけ不安になるよ
この気持ちが止まらないように

ロックンロール / くるり

ワールズエンド〜からたった2年しか経っていないのだが、ここで歌詞はまるで逆方向を向いている。ガンガン進むビートから降り、”進めビートはゆっくり刻む”、”足早にならず確かめながら”、と宣言している。

彼らはこの2000年代前半を全速力で突っ走り、ダンス・ミュージックを経て伝統的なバンド・サウンドへ戻ったわけだが、2001年に発表された「ばらの花」は、その両者のどちらにも属さない、その意味では”不完全な”曲ということも出来るだろう。

たしかに、繰り返されるピアノのリフレインはダンス・ミュージックにしては響きが弱々しすぎるし、ギターのカッティング音も何かを諦めたような乾いた音になりすぎていて押しが弱い。

しかし、この不完全で弱々しいビートこそが「ばらの花」を特別なものに仕上げている。

雨降りの朝で今日も会えないや
何となく でも少しほっとして
飲み干したジンジャーエール 気が抜けて

安心な僕らは旅に出ようぜ
思い切り泣いたり笑ったりしようぜ

ばらの花 / くるり

炭酸が抜けかかったジンジャーエールのように、どこか世界からワンテンポ遅れたような距離感の歌詞。そのメロディーを前述の”不完全な”ダンス・ビートが支える構図になっていて、まるで体温の低いダンス・ミュージックとも言える仕上がりになっている。

この時代を少し振り返ると、95年には阪神・淡路大震災、オウム真理教による地下鉄サリン事件、97年には神戸連続児童殺傷事件、98年には北朝鮮弾道ミサイル(テポドン)発射、01年には米国同時多発テロ、と暗い事件が立て続けに起こった時代でもあった。

ロック界においても、レディオヘッドが2000年に「キッドA」を発表、従来のバンド・サウンドとは全くかけ離れた音づくりを展開し、トム・ヨークの「ロックなんてゴミだ」発言が話題となった。

そのような暗い世相をひきずりつつも、くるりはあえて”安心な僕らは旅に出ようぜ”と宣言することにより、2000年代をダンス・ミュージックで新たに切り開こうとしてみせた。

「ばらの花」の寂しげなイントロのピアノを聴くと、いつでもそんなほろ苦い時代の真っ只中に連れ戻されるような気持ちになるのは、自分だけだろうか。

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