紘(hiro)/平成5年生まれ、文学部出身の広告会社勤務OL。書く力をつける為に、趣味…

紘(hiro)/平成5年生まれ、文学部出身の広告会社勤務OL。書く力をつける為に、趣味で小説などをアップしていきます。

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膜のなかからきみに出会うまで #01

どうして君は生まれてきたと思う?問いを重ねるうちに根源的な問いにたどり着いた。人より哲学に詳しかった部活の元同期の口ぶりを思い出す。酒が入るとド真面目な顔つきで思考実験を繰り広げようとする厄介な奴だが、その価値があるような、ないような夜更けの時間が、私は嫌いではなかった。 でもここは深夜の居酒屋ではない。 私は調整を済ませたばかりの万年筆をゆるく握って、朝方のカフェの端っこで肘をついていた。絶賛転職活動中。履歴書に丁寧な字で経歴を書き連ねながら、自分の市場価値について考える。

    • カウンター越しに眺める物語(小説)

      視線は、味を変える。 いま、君が口に含もうとしているその液体を一度熱く見つめてみてほしい。それは既に違う味になっているだろう。 料理は見た目の彩りが大事だとはよく言うが、何も食材の色だけではない。例えば器の温度、手触り、食事をする空間の広さ、そこに流れる環境音やBGM、すべてが料理の完成に影響する。何故ならその舌が触れている”空気の味”があり、肌に触れる空気の質量が下地となって初めて、口の中で様々な味の個性をキャッチできるのだ。味わうのがお酒なら尚更のこと、酒の種類によって合

      • 幸せかそうじゃないかは(小説)

        8月21日土曜日 晴れ よく晴れたお出かけ日和ともいえる土曜日の午後に、彼女は来なかった。 きっとコロナのせいだ。初めはそう思っていたが徐々に、裏切られた、と思うようになっていった。 僕らはコロナ禍の中で付き合った。数回目のデートでちょっとした手作り市のマーケットに行く予定だったが、ここ最近の感染者数の増大によりイベントは開催中止に。とはいえ代わりに映画でも行こうよ、カフェで少し話すだけでも気晴らしになるよ。と当日会う約束をしたものの、彼女にやっぱり気乗りしないと断られ

        • 架空の会話劇

          ねえ、深呼吸をしてみたら。ああ、今、生きてるーって実感がわくんじゃない? 生きてる実感がない人なんているの?今、生きてるか自信がないの? じゃあ、どんな時に生を実感する? なんだかむしゃくしゃしてきて、思いっきり気が済むまで走って、息がぜいぜい荒くなったとき。 わたしは、仕事がめちゃめちゃ忙しくて夢中でパソコンに向かった後、ひと段落ついて顔を上げたら目の前が霞んでて、トイレに行く途中で立ちくらみがした時かな。 それ、過労死の予兆じゃん。 あとは、眠る前と後。 寝

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        膜のなかからきみに出会うまで #01

          普通を失いたくなかった【2000字のドラマ】

          うだるような暑さの放課後だった。大学生にとっての放課後とは履修科目終わりを指すので(諸説あるが)、授業が2限で終わった日は12時半でも放課後。暑いわ、食堂は混んでるわ、昼休みのラッシュに乗り遅れるぶん損している気さえする。こんなネガティブな考えを巡らせてしまうのも暑さのせいだ。図書館に行って課題をしようか、家に帰ろうか…と迷いながら歩いているところ、「よっ」後ろから声をかけられた。振り向くより前に、私の右手側に自転車が止まり、パーカーにジャージ姿の男が立っていた。 「あー田

          普通を失いたくなかった【2000字のドラマ】

          TVアニメ「ODDTAXI」考察と感想

          「オッドタクシー」というアニメがどうやらヤバいらしい。 ほのぼのとした動物のビジュアルながら、日常系かと思いきや意外にもダークな世界観のアニメだ。タクシーが走る夜の東京の街を舞台にした、繁華街のネオンが光る洒落たビジュアル。脱力感のある今風のOPテーマ。 知ったきっかけはサブカル通の知人の口コミだったが、その第一印象とのギャップに思わず惹かれて迷わず再生ボタンを押した。それもちょうど深夜に。 メインとなる登場人物はタクシー運転手・小戸川(おどかわ)。彼のタクシーに乗って

          TVアニメ「ODDTAXI」考察と感想

          映画「花束みたいな恋をした」感想

          先週末「ターミナル」と「はじまりへの旅」の洋画2本を自宅で観たので、今週は映画館で最旬の邦画を。 ※映画のネタバレを含みます。 思わず観たいと思ったきっかけは映画.comの記事「エモすぎるオフショット」と坂元脚本の魅力を語ったこちらの評論。 それにしても、今まで以上に固有名詞に溢れている。ふたりの距離を一気に縮める重要な役割を果たした押井守にいたっては本人役で出演しているし、その後も天竺鼠、ミイラ展、ジャックパーセル、今村夏子、ゴールデンカムイ、宝石の国など、書き出した

          映画「花束みたいな恋をした」感想