見出し画像

イリノイ工科大学Institute of Designからゲストを迎えて「EquityとSustainabilityをデザインする」というイベントを開催しました

3月26日に武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所主催のイベントとして「EquityとSustainabilityをデザインする:フードロスを防ぐためのシステムデザイン」を開催しました。
アメリカのシカゴにあるイリノイ工科大学Institute of Design(通称IIT ID)からDean(学部長)のAnijo MathewとIIT IDの研究プロジェクトであるAction LabのディレクターであるMaura Sheaを迎えて、フードロスのシステムデザインをテーマにレクチャーを行いました。
レクチャーの後に、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所の研究員にもなっていただいているFogの大山貴子さんを迎えて、Mauraと大山さん、岩嵜でパネルディスカッションを行いました。

イリノイ工科大学Institute of Designとは?

イリノイ工科大学Institute of Designは岩嵜が以前留学していたアメリカのシカゴにあるデザインスクールです。
モダンデザインの旗手であるドイツのバウハウスで教鞭を取っていたモホリ=ナジが、ナチスドイツから逃れるかたちでアメリカに亡命し、シカゴに開設したデザインスクールである「New Bauhous」を源流に持ちます。
かなり早いタイミングでいわゆる広義のデザインの領域にも取組み、Strategic DesignやSystem Designといった概念で研究を蓄積してきました。

2023年に新しくDeanに着任したAnijo Mathewは、岩嵜が留学していたときにも教員として在籍されていて、Interaction Designなどの授業でお世話になりました。AnijoがDeanに着任し、アジアを始めとした各国にあらためて訪問する機会を設けていて、その一環として今回の日本訪問が実現しました。

社会と接点を持つ領域横断的なデザインスクールという共通性

IIT IDと武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスにはいくつも共通性があります。岩嵜が留学していたころのIIT IDはシカゴの都心にあるオフィスビルの中にキャンパスを構えていて、場所や規模感、佇まいなど、武蔵美市ヶ谷キャンパスにそっくりです。またIIT IDは、伝統的に社会との接点を持ちながら教育・研究を行ってきましたが、このアプローチも武蔵美市ヶ谷キャンパスで行っていることと高い親和性があります。
今回のイベントでは、そんなIDの領域横断性と社会接続性を象徴するAction Labの活動をテーマにレクチャーとディスカッションを行いました。
IIT IDでは現在、「Graduate School」「Executive Academy」「Action Labs」という3つの柱を中心に教育と研究を行っています。Action Labsは、そのうちの社会との接点における研究活動の役割を担っています。
複雑な社会課題に対して、企業や行政などのパートナーとともに領域横断的なデザイン方法論を適用して、研究活動を行っています。現在「Equitable Healthcare」「Food Systems」「Sustainable Solutions」という3つのラボが存在します。今回のイベントでは、このうちのFood Systemsの取組みを紹介してもらいました。

フードロスをなくすためにシステムデザインのアプローチを活用する

イベントではFood System Action Labの共同ディレクターを務めるMaura Sheaに登壇してもらいました。MauraはIIT IDのAssociate Professorでもあります。IDEOでデザイナーを努めた後、非営利セクターに移り社会問題を解決するためのイノベーションプロジェクトに従事した経験を持っています。

IIT IDでは、フードロスのような複雑な社会課題に向き合うためにSystem Designというアプローチを伝統的に取ってきました。
System Designとは、社会課題を要素間の関係であるシステムとして捉え、その関係性をビジュアライズし、インターベンションやレバレッジと呼ばれるシステムにインパクトを与えるポイントを見つけながら働きかけをデザインしていくという考え方です。
デザイン研究の中ではSystemic Designとも呼ばれて最近日本でも翻訳書が出版されました。

Food System Action Labのプロジェクトはシカゴにおけるフードロスの問題を対象としています。そのため、企業や行政などの関連する様々な関係者と協業しながら研究を進めています。
System Designにおいて重要なのは、こうした多様な要素の関係性をビジュアライズすることです。そのためIIT IDでは独自のフレームワークを開発し、8つの資本(Capital)を現在から未来にかけてマッピングする試みを行っています。このフレームワークは昨年シカゴで開催されたEPIC Conferenceの論文で詳しく述べられています。

ミクロとマクロをつなぐSystem Designのアプローチ

パネルディスカッションではFogの大山さんにも参加してもらって、Mauraと大山さん、岩嵜の3人で議論を進めました。
大山さんはFogというサーキュラーエコノミーのコンサルティングを行う会社を経営しながら、東京の蔵前でELABというレストラン・カフェでもあり、コミュニティスペースでもある拠点の運営もされています。

3人のディスカッションの中で特に興味深かったのは、ミクロとマクロをつなぐデザインはどのように可能だろうか?というトピックでした。
大山さんのELABの活動は東京の蔵前を中心にしたローカルなものです。一方、Mauraたちはフードシステムの全体像を把握するために全米レベル、世界レベルで食料の往来を把握しようとしています。重要なのはこの2つは分断しているのではなく、一つのシステムとしてつながっているということなのです。
個人レベルの眼の前にある食材をどのように料理するかということと、社会インフラレベルのコミュニティコンポストをどのように配置するか、そして政策レベルの食に関連する法制度をどのように整備していくか、といったことはそれぞれ関連しているのです。
大切なのは、こうした壮大なシステムをどのように把握し、どのように関係者に共感してもらい、それぞれの行動につなげていけるかです。そのために、デザインができることはホリスティックな視点に立って全体像を把握し、人々の共感を得るようなビジュアライズの力を使って、個別のプロジェクトを行動ととも実践していくことなのではないかというディスカッションになりました。

イベントを終えて

今回のイベントは通訳の準備ができず英語での開催となりましたが、それでも40〜50人程度の方々に参加いただき、とてもありがたかったです。ソーシャルクリエイティブ研究所での英語のイベントはこれまで何回か行ってきましたが、英語でもそれなりの人数の参加者に集まっていただけることがわかってきたので、今後も世界のデザイン研究・実践の最先端を紹介するイベントを英語ベースで開催できればと考えています。
もう1点興味深かったのは、世界の中ではローカルである日本の大山さんたちの活動と、Mauraたちが見ているグローバルの事象が同じシステムの中でつながり得るという点です。世界は大きな一つのシステムで成立するのではなく、小さくて多様なシステムと大きなシステムの関係性で成立していることを改めて感じることができました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?