昔書いたショートショートSF 2/2

翌日、彼の家に夢を採取する機械が届いた。『KDC600』と書いてある。
頭につけるであろう機械とパソコンにインストールするデータ。今時ディスクにデータが入っているとは、随分アナログな手法だが、彼が持っているパソコンが古い型なのだからわざわざそれに合わせてくれたのであろう。説明書には付け方しか書かれておらず、最後に『あとは自動的に夢をこちらで転送するのでただ寝るだけでOK』と書かれていた。
「自分の夢を自分で確認はできないのか…」
早速つけて一度寝てみることにした。

彼は夢の中で特殊部隊の一員だった。女上司にいいように使われているもの、信頼はされている。そんなポジションの人間だった。夜の都会で銃撃戦を繰り広げ、次のシーンへ移動。敵の本拠地である港の倉庫へ行き、捕まえる一歩手前で目が覚めた。
起きればたった三十分しか経っていなかった。
なんでこんな夢を見たのかはすぐにわかった。昨日やっていたゲームの影響だった。チームで戦うTPSで、昨日一番活躍したわけではないが、何故かチームの人から褒められた記憶があった。
「楽しい夢だったけど、こんなものでいいのか?」
そんな一抹の不安もありつつも、そろそろ両親が帰ってくるかもしれないので、また普段通りの生活を始めた。

寝る前、こんなに早くくるわけはないと思いつつも、彼の残高を確認してみると、きちんとお金が支払われていた。いままで自分がアフェリエイトブログで稼いだことのない金額だった。昔本屋で週四で働いてたバイトの時給料よりも倍高かった。
「これだ、俺の仕事は」
彼は天職を見つけたとはっきり感じた。

それからというもの、彼は夢を見ることだけに集中した。夢はノンレム睡眠の時に見やすい。つまり浅い眠りの方が夢を見やすい。これを知った彼は、三十分睡眠生活を始めた。一日の数回、三十分だけ眠る。
彼の稼ぎはどんどん増えていった。気がつけば、月に入るお金が両親の給料を超えてしまっていた。彼はそれをゲームの世界へつぎ込んだ。たくさんの外へ出ずともゲームなら、たくさんの経験ができるからだ。そんな生活が長らく続いた。
数ヶ月すると、彼の生活は寝ることが中心になっていた。最近同じような夢しか見なくなってしまったからだ。いつものと同じゲームの夢。そのせいだろうか、給料が急激に少なくなった。
「そりゃ同じような夢は買い取ってくれるわけがないよな…」
他のゲームに手を出して見たが、うまく夢となって現れてこない。
「完全にスランプだ…」
そう思った。
その時、夢を買っている会社からメールが来た。

そのメールは、会社へ来ないかというお誘いメールだった。

『いつも夢を提供していただきまして、ありがとうございます。特にお客様は、長らくコンスタントに夢を提供してくださり、本当に感謝しております。この度御礼申し上げたく、わが社までお出で願いたいたく、メールにてご連絡申し上げます。』

その下には日付と場所が記載されており、年中家にいる男は、もちろん行ける日程だった。御礼とはなんのことだろうか。だがもし、就職の話だったら・・・。男はまだ、職について諦めていなかった。これは初めて掴んだチャンスなのかもしれない。その会社のことはよく知らないが、男には何も迷いはなかった。
「よし、行こう」
男は、数十年ぶりに外へ出ることを決意した。

昔大学生の頃に買ったスーツがまだ着られた。体型は意外にも昔と変わっていないようだった。両親には驚かれたが、軽くあしらって出てきてしまった。外はあいにくの雨だったが、雨を体感するのも久しぶりだったので、憂鬱な顔をしている人々を横目に、男の心は晴れやかだった。
会社が指定してきた場所は、意外にも郊外で、交通機関を乗り継ぎして、さらに歩かなければならない所だった。全く土地勘のない場所だったが、会社の建物はすぐにわかった。周りは古い家やアパート、空き地、空き地。その中で一つたたずむ大きな建物。小汚いが、作りはしっかりしている立派な建物だった。
中へ入ると、なんと夢提供者の方はこちらと、看板が立っており、そこへ行くと数名の人間が集まっていた。
「自分だけじゃなかったのか…」
しかも、スーツで来ているのは男ただ一人だった。家がないのか、小汚い服を着ている人、普通に私服を着ている人。とにかくまともに働いているような人は見受けられない。
控え室で待っていると、白衣を着た女の人が現れた。研究員のようだった。
「皆様、いつも夢を提供していただき、ありがとうございます。これから、皆様にはここで一仕事してもらおうかと思ってます」
一仕事とはどれくらいのものなのか、他の人は普通に何も疑問のない顔をしていた。「とりあえず皆様にはここで何日か生活してもらいます。もし、優秀であれば長く生活してもらう可能性もあります。もちろんお金は振り込みます」
男のメールにはそこまでのことは書いていなかったので、去り際に男は個人的に質問へ行った。
「え、すいません、そういうことなら先に言ってください。着替えとか持ってきてないです」
「そういうのは大丈夫です。こちらで全部用意しております」
「僕のメールには一回来てとしか書いてありませんでしたが」
「そうでしたか。すみません、あまり詳しくは書けなかったもので。とりあえず夢を見ていただくために生活環境が整った場所で生活していただくだけです。」
だから浮浪者ばっかりだったのかもしれない。男は、夢を定期的に送っていたので、職なしだと判断されて、ここに呼ばれたのだ。
「まぁご飯食べて映像を見て寝てもらうだけなので、とりあえずご飯食べましょうか」